秋野 これは何が起こるか分からないので是非欲しい条文です。 ただ、不可抗力による損害条項というのはお施主さんからいわゆる『契約約款クレーム』、「この約款お宅に有利すぎるんじゃないの」ということで、クレームが寄せられる率ナンバーワンで、これは震災前であってもナンバーワンなので、よくよく確認を取っておきたい条項です。
新築の約款のときにもご説明を申しあげましたが、基本的には天災地変が起きた時は、不可抗力による損害については「発注者、受注者が協議して重大なものと認め、かつ、受注者が善良な管理者としての注意をしたと認められるものは、発注者(お客さん)がこれを負担します」という条項になっています。
ただ、天災地変による損害はお客さんもちというのは見栄えが悪いということで、ハウスメーカーなどでは、「受注者が善良な管理者としての注意をしなかった場合には、受注者(工務店)が負担します」という表現をしているところもあります。
ところが、この表現は法律的に全く意味のない表現でありまして、じゃあ善良な管理者としての注意をしていた場合はどうなるの、ということについては何も謳っていないことになる。通常は工務店は善良な管理者としての注意義務、労働安全衛生法を遵守してしっかりと現場管理をしながら工事を進めているのが通常であって、やみくもに危険にさらすようなことはしない。
だから善良な管理者としての注意を払っているのが通常である。そのことについて何も言っていない条項なんか定めても無意味じゃないかと。で、例えば積水ハウスなんかは、もう不可抗力による損害もうちが持ちますという条項をわざわざ設けています。どうせうち持ち(受注者負担)になっちゃうんだったら、じゃあうちが持ちますとアピールしようよ、というような形でやっています。
ちなみに皆様方に、東日本大震災でいろいろと手待ちが起きたり、やり直しが起きたり、いろいろあったかと思うんですが、あの時どう処理したかというのも一つ参考になるかと思います。
この不可抗力による損害条項というのは、建物が出来上がるまでの間です。建物ができた後は瑕疵担保責任の条項なので、建物ができあがっている工事途中の物件について、東日本大震災が起きて、やり直し工事がちょっと出てしまいましたと、その分の費用をお客さんに請求しましたか。いや、あの時うちはお客さんに請求しないで、うちで抱えたよと。極端な話、液状化で沈下して、沈下したまま引き渡すわけにもいかないから、うちの費用で持ち上げたよ、という会社さんもいるんですよね。
そこまでするんだったら、むしろ、不可抗力による損害はうちが持つって言ってしまってもいいじゃないかという気もしなくもない。 じゃあ、もう面倒なので、不可抗力による損害条項も外してしまおうかという、この判断がなかなかしづらいのは、約款がついていないと民法の解釈による、不可抗力による損害が起きた時には、天からお金は降ってきませんので、従って請負人か注文者のどちらかが負担しないといけない。いずれかが負担しないといけないということは、これルールが定まっていないと揉め事が起きるんです。
だから不可抗力による損害が生じた場合には、その損害額については、発注者・受注者が協議の上決するというのは全く無意味な条項で、どちらかが負担するという形で書いておかないと意味がない。そうすると、工務店を守る立場という形で考えますと、善良な管理者としての注意を払っていた場合にはお客さん負担という、クレームの多い条項ではあるけれども、押さえておきたいなという気はします。
ただし、不可抗力というのは、要するにハリケーンとか竜巻とか大地震というのはどのくらいの発生確率で来るのか。それに対して、お客さんの方も地震とかそういったことに敏感になっている中で、約款を読んでいったら、「何これ、私が負担するの?」みたいな形で、その都度小さないざこざを起こしながら契約をするなんていうことを考えたら、積水ハウスのやり方も一理ある。
C社 基本的な質問なんですが、お互いの責任にできない不可抗力というのはどの程度のことを言うんですか。例えば台風であれば、毎年来るような台風のどの程度が該当するのかとか、地震も例えば震度6強なら該当するけど6弱なら該当しないとか。その辺のラインはどうなっているんですか。
秋野 基本的にはそこは別にラインとしては大きくない。不可抗力という言葉の意味というよりは、両当事者に責がないけれども現実に損害が出てしまったということなので、台風と言えない大雨で、例えば川が増水して排水されず水が道路に噴き出して木部を濡らしたとする。取り替えなきゃねという時に、お客さんも悪くないし工務店も悪くない。
これが、瑕疵担保責任を免責させる方の地震とか不可抗力の考え方はこことは違うんです。あっちは、例えば瑕疵担保責任の瑕疵があるかないかというところで当然耐震性というものを求められるのであって、地面が揺れるというのは耐震性がある建物であることの実証実験みたいなものですから、それに対して耐えられなかったとして、それが地震免責になるかというと、阪神淡路大震災の裁判例では地震だから免責だとは言えませんという形で、引き渡し前の問題と引き渡し後の問題を分けて考える必要はあります。
で、僕が、工務店が悪くないにもかかわらず発生する損害を約款で極力防止してもらいたいという観点で言うと、最低でもここは欲しいというところなんです、実は。
善良な管理者としての注意を果たしていた場合にはお客さん負担だよというというところは最低条文で欲しくて、新築の場合はこれでいいんですけど、リフォームの場合は柱を抜き壁を壊し、建物のバランスが悪くなったその瞬間に地震が来て、建物が崩れてしまったらどうするんだという話があるので、これ以上に工務店を守ることが必要かという観点でリフォームの契約約款を見る。
ただ、現実の裁判例はないのですが、法律の理屈で言うならば、建物のバランスを悪くするならばそれなりの養生をして工事をするのが筋でしょ、という話になってしまうので、解体する最中に建物が偏心していて、それがきっかけで地震で倒壊したら、これ善良な管理者としての注意を果たしていないという判断になろうかと思います。だから、いくらこの条項があっても工務店負担になる可能性がある。
ただ、幸いにして中古住宅というのは今は価値が低いので、例えば固定資産の評価額で300万の家だったら、建物全部が壊れたとしても、損害額はアッパー300万円。 建て替えで2,500万払わされるリスクというのは無いんですが。その建物の価値内での賠償はしなくてはならない。
A社 もしこのままいったとして、お客さんがそんなのいやだと。何かあった時にうちがお金を払ったらうちはもう無いよ、ぎりぎりでやっているのに、という話になった時に、今この保険というのは無いと聞いているんですが。不可抗力、津波の保険がない。工事側も無いです。この状況は相変わらずですか。
D社 変わらないと思います。
A社 とすると難しいですよね。逃げようがない。祈るしかない。
B社 おそらくリフォームの時って、そんなに無茶な事はしないでちゃんとサポートがあってやっているんですけど、大体腐朽していたり白蟻が食っていたり。
それでそこに地震が来て、やっていたかやっていなかったかなんて崩れてしまったら分からないわけで、リフォーム中に大きな地震があった時のことを心配しているんですけど、その時に善良だぞという話ではなくて、なんでリフォーム中に潰れたらうちが直さなくてはいけない、負担しなくてはいけないのかと思ってしまったりもする。
だったら施主負担だと言っちゃいたいぐらいなんですが。ただ、おっしゃる通り施主にそれを説明すると、新築の約款をそのまま見せてやった場合に必ず「え、そうなんですか」と。まあでも「そういうものなんです。神に祈りましょう。」というので半ば強引に通していることもあります。
C社 もしリフォームで地震が来ても、そもそも耐震リフォームなんていうと何もしなかったら潰れる可能性があるものを耐震リフォームしようということで始めるわけで、それを手を付けた瞬間から地震が来ても崩れないようするというのは不可能な部分が多いし、もしそれを最大限実現しようとすると費用が余りにも高くつきすぎる。
現実的でない場合がありますよね。その辺がどうなのかなと。確かにちゃんとした、きちんと耐震性が備わっている家を、増築とか部屋の間取りを変えるとかで柱を抜く、梁を抜くという時に地震が来たら、これはもう不運と思って諦めるしかないかなと思うんですけど、そもそも壊れそうな家の場合はどうなのという、その辺もありますよね。
秋野 一応ですね、せっかく施工者サイドでリスクを回避するためにという形でつくっているわけなので、その観点から言うとここだと。ただそこでは抑えきれないリスクは残っていますよというところはご確認をいただきたいことです。
ここは応用問題になってしまうんですけど、どうしても摺り合わないということであればAとBのどちらかを選ぶとか、そういう形でやっていただきたいと思います。
|