良い住宅ローン商品はないー住宅ローンは使い方次第
◆SAREX News 2016年7月◆
マイナス金利導入、消費税増税延期決定の影響をつかみあぐねていたところに起きた英国のEU離脱(いわゆる“BREXIT”・ブレグジットと読むらしい)という衝撃的な「騒動」によって、再び襲ってきた円高、株安。そしてますます混迷する世界。英国のEU離脱は世界経済の中でのリスクを高めている。
こうした環境下にある金融市場であるが、金融商品の一つである住宅ローンにはこれがベストというものは存在しない。今回は、住宅ローンの良い例と悪い例から住宅ローンのリスクを解明する。
■アパート家賃並みのローン支払いはやめなさい■
長期固定は1%台、短期変動は0%台の「おとぎの国の住宅融資」環境が久しく続く中で、“アパート家賃支払い並みで持家が買える”というマジックが成り立ってきた。全ての投資行為はリスクとリターンが表裏一体関係にある。
ローリスク・ハイリターンのお値打ち投資はあり得ない異常現象である。アパートの支払い家賃並みで持家が買えるのが本当ならば、年間40万戸の貸家市場は全て持ち家にシフトするはずである。
しかし、そうならないのは“アパートの家賃並み”の部分に詐術が隠されているからである。
例えば3,000 万円の住宅があったとする。あなたが家主なら募集家賃は最低でも15万円/月を望むであろう。それでも投資回収するには15年以上かかる。
同じ住宅をイオン銀行の短期変動金利全額融資で借り入れると、月次ローン返済額は75,000円、即ちアパート支払い家賃並みで収まることになる。
合理的な市場経済の中では一物二価はあり得ないはずで、賃貸家賃と住宅ローン返済額75,000円の差異は明らかにおかしい。これはローン支払い額を75,000 円にした帰属家賃の設定が誤っているからである。
周辺相場家賃(市場価格)から逸脱したアパート家賃並みの帰属家賃(住宅ローン返済額)にはローン破綻リスクがついて回る。
住宅ローン破綻はローンの残債額と住宅売却額の差異が埋めきれないことで起こる。住宅価値が経年減価する不動産評価法にその責任を押し付けたところで問題は解決しない。
住宅資産のバランスシートを均等に保つには、周辺家賃相場と等価の帰属家賃(住宅ローン返済額)支払いを実行することである。“アパートの支払い家賃並み住宅ローン”は住宅ローンの時間効用を誤った使い方であり、住宅価値の先食いに他ならない。
■おひとり様市場のすすめ 1つ買えるなら2つ目も可能■
“アパートの支払い家賃並みで家が買える”という呪文は金融リテラシーに長じているおひとり様をも取り込む威力を持っている。相対的な住宅ローン減税還付額の大きさもあいまっておひとり様向けマンション市場を成立させている。とりあえずローン減税効果で始めた住宅投資に益が少ないことは10年間の計算ですぐにわかる。
〔試算例〕4,000 万円のマンションを頭金1,000万円、ローン金利1%、期間20年で借り入れた場合
○10 年落ちマンション再販価格(新価の7掛):4,000万円×70%=2,800万円
○住宅ローン残債務額:3,311 万円(返済総額 3,000万円×1.01%×20 年)-1,656万円(住宅ローン返済 13.8万円×12ヵ月×10年)=1,655万円
○不動産を金融資産に変える場合: 売却収支2,800万円-1,655万円=1,145万円
資産としては頭金として投じた1,000万円が145万円増えている。これでは13.8万円の賃貸に住みながら1,000万円をローリスクの金融商品で運用することと資産効率の点においてほとんど変わらない。10年目の資産評価では住宅投資でミドルリスクを取ったにも関わらずローリターンの結果に終わってしまっている。金利が低すぎてレバレッジの効用が働いていないからである。
そこで10年間の住宅投資経験を糧として2,800万円の保有不動産を担保とする住宅資産投資が考えられる。2番抵当となる分、融資額は限定されるにしても、2つ目の住宅は家賃収入を稼ぐ資産と化し、新たな借り入れから発生する利息は確定申告で控除の対象となる。税還付効果が再び回り始める。
現代の日本では暗黙の了解とされた社会人としての規範である結婚、子育て、持ち家の3タイトルを満たすことは極めて高いハードルとなってしまった。
独身も非婚も子供なしは、いまや決して少数派ではない。おひとり様の住宅需要をどのようにリードしていくのかが今後の取り組み課題であり、住宅ローンをどう活用しておひとり様の生活リスクを低くしていくのか、といったことを工務店はそろそろきちんと知ることだ。
その結果、成熟国日本のライフスタイルにあって独身シングル層の経済力が住宅需要の一大顧客となり得るだろう。