空き家問題は現代の逃散である 家をどう終活するか

◆SAREX News 2016年8月◆


現代家族小説の名手・重松清は、著作『ファミレス』でファミリーレストランに仮託して家族の変貌を描いている。夫婦と子どもからなる標準世帯(ニューファミリーと呼ばれた時代もあった)の象徴でもあったファミリーレストランから家族がいなくなり、代わりに高齢者のグループやひとり客が中心となっている。「family less」のためのレストランである。
そして「family less」は空き家問題に、さらには住宅・不動産の“負動産”化にまで及ぼうとしている。

■空き家の次の「負動産」化■
日本で最も安い地価は北海道に点在しており、公示価格ベースで500円台~1,000円以下/㎡あたりの土地がごろごろしている。平成27年の実勢取引価格は8万円台で、宅建業者どころか原野商法ですら見向きもしないほどの捨て値である。
さて、直近のデータの空き家率13%、空き家数830万戸がこのまま推移すると、2035年には2,000万戸を超えると推定されている。これはもはや現代の逃散とも呼ぶべき現象であろう。
山林や農地と比べると相対的に高い固定資産税。税金もさることながら空き家問題の根源には除却コストの存在がある。ゼロ以下にはならないと信じられた金利でさえマイナスが付く今日、除却コストを控除するとマイナスとなる不動産は驚くには値しないのかもしれない。
固定資産評価法では法定耐用年数を超えると建物評価はゼロとなる。ところが課税基礎となる土地評価額はゼロにはならない。
かくて売れない不動産は路線価と流通実態がますますかけ離れていく。
空き家問題は相続とも深く関与している。不動産所有権は放棄することが可能である。しかしながら、次の所有者が現れるまでの管理責任から相続人は逃れることができない。
売れない、処分できない不動産は地方公共団体への寄贈に向かうが、よほどの案件でもなければ寄贈は拒否される。財政事情の厳しい地方公共団体では固定資産税収入は税収の半分を占めており、売れもしない土地が迷惑千万の存在であるのは自治体とて同じである。
古家付き土地、あるいは更地を問わず、引き取り手のない土地・不動産は「負動産」となる。
マイナス地価すらあり得るクズ土地対策として、隣接地のオーナーへの寄贈が有用性が高い。110万円以内であれば贈与税は非課税である。今日の地方の住宅地にあっては車2台分の駐車スペースの確保が必要充分条件になっている。高度成長期に開発された住宅地のほとんどが1台分の駐車スペースしか設けられていない。部屋数ばかり多く、駐車場が1台分しかない市場価値ゼロの古家も隣接居住者にとっては限界効用価値の高い不動産となり得るのである。

■滅失こそすごろくの上りである 解体積立金という考え方■
空き家対策としては空き家バンクに始まり、空き家対策法に基づく強制代執行の空き家除却、さらには借り上げ公営住宅として空き家利用などの検討開始など様々な施策が講じられてはいる。しかし、膨大な数に及ぶ空き家問題には蟷螂の斧に等しい無力感がある。
そこで、根源的な空き家対策として考案されているのが「滅失権取引」である。家電や自動車のように廃棄、リサイクルの方法とコストを義務化するプランである。
新築住宅の建築主は滅失権を購入しないと建築ができないようにする。滅失権の供給元は除却コストが捻出できない古家不動産所有者である。滅失権購入者は自己の住宅の除却に使えるので損得は生じない。新設着工数と滅失件数が同数となり空き家の増加に歯止めがかかる算段である。
しかし、民主主義社会で最も尊重さるべき私有権に制限をかけるプランだけに超えるべきハードルは高い。
一足飛びの滅失権まではいかずとも、実用可能性が極めて優れる対策案が定借権住宅である。あまり進まない戸建て定借をよそに定借マンションの人気は高まっている。
定借期間の50年後、60年後に解体し更地返還であることはマンションでも例外ではない。最後の大規模改修を終えた後の修繕積立金は解体積立金に目的を変えて蓄積されていく。マンションの建て替え決議は区分所有者の4/5以上の議決権を必要とする非常に厳しい要件があり、高齢マンションのスラム化は空き家問題の中でも難関のテーマとなっている。
予め滅失と返還が決定している定期借地権住宅を再評価してみてはどうだろうか。


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