人口減少社会のメガトレンド 金融分野における高齢化とAIの事例

◆SAREX News 2015年12月◆


人口減少による影響が内需産業にも及ぼし始めている。パイの減少を資本集約で乗り越えられた段階を超えると、本質的なビジネスモデル転換を果たさなければ生き残りが難しいフェイズに入る。

人口減少、高齢社会のビジネスモデル転換の事例として金融業界の動きを取り上げる。

 

■高齢化とAIが自動車保険を変える メーカーPL保険で損保代理店壊滅■

このほどアメリカンホームダイレクト保険が2016年4月1日からの自動車保険新規募集中止を公表した。既契約者の更新契約は維持されるものの同社の措置は典型的な保険会社の退出戦略に他ならず、次はZで始まる外国損保会社の此分野撤退が予測されている。年齢区分別危険割合や、走行距離別保険料設定で日本の自動車保険に風穴を開けた外資系、ネット系損害保険会社の退出は自動車保険全体への黄昏を示すものとなる。
原因は高齢社会の進行とAI(人工知能)の進化である。自動車登録台数の減少、車離れに反し自動車事故率は悪化している。しかも高齢者ドライバー事故が主因だけに救いがない。彼らは保険金を支払うだけ支払わせておいて、とっとと免許返納や物故してしまい、自動車保険に対する保険料支払者としの寄与が少ない。ネット系損保会社は保険募集コストの低さを武器に保険料競争で優位に立つことができた。しかしながら、ロードサービスや保険金支払いコストは一般保険会社と同等かかり、保険料ディスカウント分利ザヤは減少する。
自動車保険を見限る理由は事故率悪化と保険契約者減少だけではない。
AIの進化で自動車保険が激変する可能性が高まっているからだ。AIを活用したオートドライブ技術が完成すると対人、対物における自動車事故の賠償責任はドライバーから車の製造者に移転すると予測されている。
オートドライブ中の事故は製造品の欠陥によるものなのでPL保険(生産物賠償責任保険)で担保されるように変わるのだ。メガトレンドの影響は甚大だ。収入保険料6兆円強、代理店数20万社、従業員200万人(兼業を含む)の損保代理店は売上げの60%を自動車保険が占めている。自動車保険の全てではないにしても自動車メーカーとメガ損保の保険料率交渉で済んでしまう。中期展望の中で損保代理店制度は浮沈の際に置かれている。

 

■生き残りの鍵は相続系不動産市場■

続いて銀行業界はどうなるか。
投資銀行部門を持たないことが却って幸いし、100年に一度と呼ばれたリーマン・ショック後の世界金融市場における日本のメガバンクの信用力は際立って大きくなった。しかし国内金融市場に目を転ずれば、アベノミクス第一の矢「異次元の金融緩和」をもってしても資金需要の喚起は失敗に終わっている。海外で稼げるメガバンクはともかくも、運用困難な預貯金ばかりが集まる地銀、信金の疲弊は著しい。
現在の預貸率は70%台。残り30%は預けてほしくない金である。元金を倍にするためには3000年かかる現下の定期預金利息が銀行の本音を表している。決済ビジネスはネット銀行に奪われ、国債投資の財政破綻リスクは高まり八方塞がりの地方銀行。
地方経済圏において地域金融機関全ての腹を満たす設備投資、民間住宅投資需要が期待できない以上、唯一可能性の高い分野が不動産融資分野となる。

 

■貧困化が賃貸住宅需要を促す■

不動産融資のキーワードは相続税と貧困化である。
相続税対策不動産需要は相続税対策バブルと化し、2015年の住宅市場においてハウスメーカーや賃貸住宅大手に最高益をもたらした。動いているのは俄かに近い準富裕層で、一次相続の課税圧縮が最大眼目となるため入居率や利回りにあまり頓着しない。いわばおいしい客である。
次に貧困化が持家から賃貸への需要移転を促す。
住宅ローンで説明すると、都市部と地方圏の地価格差がそのままクレジット格差となって現出する。ごく一般的な金融機関の担保評価額を8掛けとすると、路線価3万円/㎡、200㎡の土地に1,500万円の新築住宅建築に下される住宅ローンは1,680万円となる。それだけしか借りられない。
地方の持家市場は低廉な地価の恩恵よりも、クレジットの不利益の影響の方が大きい。雇用機会が少なく所得の上昇余地も小さく、持家市場が盛り上がらない地方圏では賃貸需要は根強く残る。2015年1月1日施行の相続税強化は始まったばかりで、この程度で収まるはずはない。家計保有資産約1,000兆円の内、年間20兆円の相続系不動産市場が団塊世代が亡くなるまで発生するものと予想されている。住宅事業者は地域金融機関と問題を共有する自助努力もさることながら、メガトレンドの変化に応じた事業構築再編は急務となってくる。


 

>Back numberはこちらからご覧いただけます。