2020年代も続くマイナス金利-金利史の大転換 マイナス金利は何を変えるのか

◆SAREX News 2016年9月◆


 将来の金利を予測するフォワードレートによると、日本のマイナス金利は7 年先の2023 年まで続き、2024 年以降にプラス転換するのだという。これが足下の固定10 年住宅ローン0.47%でも銀行が逆ザヤに陥らない根拠となっている。住宅業界には功が大きいマイナス金利も、多くの生活者にとって将来不安、老後不安を増幅する厄災に他ならない。
 マイナス金利時代とは何であるのか。

■ババとなるマイナス金利国債 金融機関が傷むと決済サービスも劣化■
 デンマークでは2012 年に導入したマイナス金利がついに住宅ローン分野にまで及び、月次の返済額に利息が返戻されるマイナス住宅ローンが現出している。起源前2100 年に誕生したと言われる金利は、時間利用コストと債務不履行リスクコストの対価として広く世界に伝播した。金利の歴史が終焉するとしたならば、エポックメイキングとしてマイナス金利は記録されるのかもしれない。
 現下のマイナス金利最大の受益者は日本国である。2016 年の国債利払い費は2.6 兆円低減され、その余力は政策経費に差し替えられ安倍政権支持率を贖(あがな)っている。住宅ローン借り換えによって返済に一息ついた生活者もささやかな受益者である。
 一方で、金融セクターである銀行、生命保険、年金基金はマイナス金利で大きな損害を被る。マイナス金利代表品種の10 年国債利回りは- 0.085%となっている。100 万円を保有していると850 円のマイナス金利が付くので額面は999,150 円に減価する。
 国債を含む債券全般は利回りが下がると価格は上がり、逆に利回りが上がると価格は下がる性質を持っている。
 10 年国債の100 円あたりの流通価格は、マイナス金利に入る1 年前の146 円から現在価格の151 円となり5 円増加している。つまりマイナス金利を支払っても、ペイするために国債価格は維持される(数字はいずれも原稿執筆時点)。
 ただし、満期が近づくにつれ買値より売値が安くなるマイナス金利国債の販売先を探すことは至難の業となる。前号でも触れた中古負動産と同様のババ抜きゲームが金融市場でも起こりかねない。そして、このことは富裕層が困るだけではなく、平均的な生活者にもボディーブローのようなダメージを与えかねない。
 マイナス金利が続く限り、銀行が生き残るためのつけ回しは消費者に向かう。ATM の利用料や送金手数料等のサービス課金は強化され、実態金融サービス分野にも格差拡大が起こる。銀行口座やクレジットカードが持てない貧困層が貨幣や紙幣を決済手段とする米国のスタイルである。

■マイナス金利時代を生き抜く 個人向け確定拠出年金という希望■
 マイナス金利は将来の老後資金となる生保や年金を揺るがせる甚大な問題となってくる。まず公的年金を補完する目的で広く活用されている生命保険に影響が現われはじめた。予定利回りが確保できなくなった主要生保各社が養老保険の募集停止を相次いではじめた。
 国債が駄目ならと機関投資家が向かう先の公社債に目を向けてみても、公社債は指標金利となる国債利回りに連動する。
 トヨタ20 年債は0.34、住宅金融支援機構の第112 回債は0.33 である(原稿執筆時点)。この低利回りでは500 兆円ある生命保険契約の予定利回りが1%台に低下しても致し方ない。
 本来生命保険も損害保険のように保険料掛け捨てが原則である。老後資金の見直しは貯蓄型生保のリストラが始点となる。学資保険、年金保険、養老保険など貯蓄型保険から掛け捨て型医療・死亡保障の生保に切り替えると余裕資金が生まれる。
 お勧めは生保会社と比べ付加保険料率が低い共済、労済の保障商品である。
 次には肝心要の先の超低金利の下での自分年金の形成方法となる。最善策として挙がるのは2017 年1 月から利用が可能となる個人向け確定拠出年金であろう。
 月額23,000 円、年額276,000 円を限度に所得税が控除される。
 減税期間は契約開始から60 歳までの長期である。メリットは複数あり、住宅ローン控除との併用も可能で、確定拠出年金の運用利息や配当も非課税となる。
 NISA の非課税限度枠120 万円と比べてみても優遇の大きさは歴然とする。デメリットとして挙げられる満期60 歳までの解約制限についても長期減税効果の大きさにより相殺される。
 これほどおいしい個人向け確定拠出年金には裏があることは言うまでもないだろう。
 その裏とは、社会保障給付水準の切り下げである。
 金利なき世界が常態化した将来において、公的年金の給付制限や支給年齢の引き上げは想定内リスクとして捉えられなければならない。
 その徴候の一つが、大和ハウスが16 年3 月に特損を計上して話題となった退職給付会計の導入である。金利状況次第では退職金すら危険にさらされているのである。私たちは苛烈な自己責任の時代に置かれている。


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