高まる地震保険の有用性 災害リスクに住宅金融も一歩前進

◆SAREX News 2016年6月◆


4月に発生した熊本地震は、この20 年間で激甚災害指定された4回目の地震にあたる。「想定外」は地震の接頭語かと思われるほど、熊本地震でも想定外の事態に見舞われている。地震リスクに対抗するソフト技術について解説する。

 

■地震保険目的は生活補償 賃貸住宅に残る地震保険未加入リスク■
1000年に一度と呼ばれた東日本大震災を奇禍として地震保険加入率は大きく上昇し、2016年5月現在で60%を超えている。
地震保険、地震共済は日本国が再保険を引き受ける特殊な保険の1つである。特徴としては住宅物件でしか契約できず、一般の損害保険のように財物損害補償というより生活補償資金を主眼に制度は構築されている。
これは火災保険との付帯契約が条件で、単独では契約できず、保険上限価額も設定されている。
端的に言うと事実上の国営保険であり、保険会社や共済による商品性や保険料の差異はほとんどなく、どこで入ろうが同じである。
地震保険の次のターゲットは賃貸住宅の貸借人となる。家具や什器を保険の目的とすることで生活補償がリスクヘッジできる。
賃貸住宅のほぼ100%で加入を強制される借家人賠償責任保険契約とは違い、任意制度であり、かつ手数料も低い地震保険を勧めるインセンティブは保険代理店には働きにくい。
賃貸住宅が破損し、居住が困難となっても代替住居をオーナーが手当てしてくれる道理などあるわけがない。地震リスクについては自己責任が大原則である。
熊本地震のアパート倒壊で死亡した大学生の、家主と不動産屋への賠償責任について触れておこう。媒介契約に携わった宅建士の重要事項説明に瑕疵がなければ賠償責任は問うことはできなない。家主については既存不適格状態であることを合意の上での賃貸借契約の場合、賠償請求は困難となる。天災に対するセンチメンタルクレーム(精神慰謝)は不可抗力で済ませるのみである。

 

■地震補償と地盤保証特約■
地震保険の同類的な保険商品として地震補償保険が販売されている。
2006年の保険業法改正により誕生した少額短期保険は、事業者が扱う保険認可商品の1つである。
これには生命保険と損害保険の2分野があり、損害保険の場合、保険額1,000万円以内、保険期間2年以内と規定される。少額短期保険は無認可共済の適法化措置として生まれた経緯があり、元は共済である。
この地震補償保険は、収受した保険料の範囲で保険制度を運営し再保険がなく、最大の利点は単独契約が可能であり、お手軽保険として『地震補償付き住宅』等の販促プランとして活用されている。
そして、建物の耐震性能もさることながら地震動の影響は地盤の固有性質に影響されることはよく知られている。軟弱地盤の地震リスクは当然ながら高い。地震長周期振動に起因する地盤液状化は住宅地盤の新たなリスクとして認識されるようになった。
地盤保証会社各社では地盤の不同沈下を保証する地盤保証制度に液状化補償特約を開発した。
しかし、地盤保証制度の多くが最大保証額を5,000万円と設定する中で、液状化特約補償の保証額は500万円に留まっている。液状化対策は恐ろしく効率性が悪い。1,000~2,000万円とされる液状化再復旧費用、さらには平均500万円とされる液状化予防対策工事費用。小規模住宅液状化対策は始まったばかりである。

 

■建築中の地震リスクと債務整理ガイドライン活用を■
住宅建築の契約から引渡し、さらにローン償還完了までのあまねくリスクに対して様々な保険、保証制度が構築され、住宅のリスク対策は概ね充足されたといってよいであろう。
未解決として残る住宅リスクの最大の項目が、建築中に発生する住宅の地震被災である。建築中の住宅の風水害等の自然災害は工務店が掛ける建設工事保険で担保され、引渡し後は所有者の地震保険が担保する。
しかし、所有権移転登記がなされるまでの建築中の出来形の地震リスクについては無保証状態のままさらされている。建築中のつなぎ融資は本融資で決済されることになっており一部損壊、半損、全損のいかなる地震被災であれ、施主に資金の余力がない限り住宅ローン破綻は免れない。
建築中の地震リスクを予防することはできないものの、予後の措置として一つの曙光が現れている。それは住宅ローン免責に関する「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の施行である。ガイドラインの内容としては金融機関の同意が得られれば、蓄えのうち最大500万円と、そのほか再建を支援するための公的な支援金などを手元に残した上で、できるだけ返済し、返済しきれない分は免除してもらえる仕組みである。
特定民事調停の自己破産とは異なり、個人信用情報を棄損することなく、新たな借り入れも可能となる。任意規定であるガイドラインには全金融機関に対する拘束力はないものの、住宅金融のセーフティネットとして大きな前進と位置付けられよう。

 


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