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現在の住宅建築市場における、住宅建築業としての工務店のポジションを考察すると、下記のように分類することができる。
1)木造注文住宅工務店
2)増改築専門工務店
3)FC加盟工務店
4)ハウスメーカー下請工務店
5)大工専門職工務店
などがある。
上記分類の木造注文住宅工務店の中でも、自社の設計施工によるダイレクト受注と設計事務所からの受注とがあり、これは設計事務所からの下請け的要素が大である。また、大工専門職工務店は、大工工事分類の中から、2×4躯体、2×4造作、外部壁張などに区分され、近年、木造軸組機械プレカットの普及により、在来工法でも建て前後の造作を専門とするなど、ここにきて大工職ひとつをとっても益々細分化・専門化しつつある。
ここ数年間にわたり我が国では毎年50万戸前後の戸建て住宅が供給されてきたが、その中で工務店による生産は50%ぐらいと推察されるが、残りの50%は商社的住宅販売業者である大手ハウスメーカーであり、工業化住宅Mのプレハブメーカーである。
さらに最近の台頭著しいパワービルダーと称される、○○設計、○○産業、○○ハウス、なども土地付住宅の販売業者である。
このように最近は住宅建設業の供給シェアのいわゆる二極化が進み、商社的住宅販売業者とビルダー的住宅施工業者とに分別されて、両者の格差が益々離れつつあるのが現状である。
このような現象の事の良し悪しは別としても、少なくとも次代の職人を養成し、技能を伝承させようと心して、大工を始めとした職人の養成に努力しているのは、木造住宅工務店と、大工専門職工務店のみと言っても極論ではない。
もっとも、一部大手ハウスメーカーにおいて、職業訓練校を開設しているところも見受けられるが、これとて住宅販売業としての営業広報におけるパフォーマンスとしか見えてこない。昔ある倒産したハウスメーカーの「凄いわ、○○ハウスは家と一緒に大工さんまで造っちゃうのだから」というTVコマーシャルを思い出す。
それでは、現在工務店業界においてどのような後継職人の育成をしているのかを列挙する。 |
木造住宅工務店、FC加盟工務店、大工専門職工務店、などによりそれぞれの業容により、毎年1、2名の高卒の大工希望者を見習い大工として採用する。
この場合の雇用形態は社員大工として、所得税を源泉徴収し、各種社会保険の会社負担をする場合と、身分は外注業者として所得税の源泉徴収もせず、社会保険も未加入で、日割計算により給料を支給する場合の2通りがあるが、どちらかと言うと後者の外注形式の方が多く見受けられる。
しかし、職業訓練法による訓練校に入校させた場合の国からの職業訓練助成金の交付を受けるためには、源泉徴収、社会保険の加入が条件となるので、外注形式では補助金交付の対象とはならない。それと、もうひとつ見習い大工の正社員採用を躊躇せざるを得ない状況として、労働基準法による、最低賃金の規制がある。各県によって多少の違いはあるが、大体1日6,000円前後の最低賃金を保証しなければ労基法違反となり、雇用者は責任を追及されることになる。この金額に各種社会保険の事業者負担分を加算すると、見習大工として足手まといこそなれ、何ら戦力として業務に貢献できなくとも、採用1、2年は毎月20万円近い給料を支給しなければならず、昨今の不況のなかにあっては負担が少なくない。
高校を卒業した18歳の成人前のこれから職業的技能を習得しようとする少年を単なる労働者として、雇用契約により就業させなければいけない現行の法律を変えない限り、この問題は解決しないであろう。
技能者養成のためには、現行の労働基準法を改正し、例えば技能習得雇用契約とでも言うべき制度ができることを願うものである。
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職業訓練法による、厚生労働省管轄の職業訓練校が設立されて久しいが、年々入学生の減少が言われている。この因となすものは一言で言えば少子化の影響ということであるが、その他にも、訓練校で使用しているカリキュラムの内容が現在の現場における工法とか生産システムと相違したものになってしまっていることも一因と思われる。
昨年、国交省によって木造住宅の大工技能者養成を援助すべく、住宅産業研修財団を訓練委託先に指定し、「大工育成塾」が開設された。第1期生として60名が入校し、座学を(財)住宅研修財団が受け持ち、受け入れ工務店及び指導大工が実技指導を行うというものである。
修業年限は3年間とし、授業料として第1年次50万円、第2年次40万円、第3年次30万円を納める。また、国土交通省からは、実技研修費用として、1年目100万円、2年目90万円、3年目80万円が、受け入れ工務店に支払われる。 住宅研修財団では毎年100名の生徒を募集し、今後10年間で大工1,000名の養成を目指している。しかし、どのようなカリキュラムを組もうと、3年間の修業年限で大工職人の基本をマスターできれば上出来である。前述した通り国から3年間で270万円の見習工育成補助金が出るのは一歩前進と言えるが、卒業後の研修大工の身分が雇用なのか、インターンシップとしての学生なのか明確でなく、賃金の支払い、それに伴う所得税、社会保険の加入など、不透明の部分も少なくない。住宅研修財団ではあくまで研修大工は学生との見解であり、賃金の支払いについては工務店に任せているのが実情である。 |
かつて、筆者は訓練校などのカリキュラムがあまりにも現実と乖離しているのに疑問をいだき、私塾「番匠塾」を開塾した経験を持つが(1986〜2002)、座学としては木造架構法とそれに伴う墨付け、いわゆる構造木材のマーキングを主力として、それに木材についての知識を主に行った。訓練校の必須科目である建築歴史とか構造概論とかは自習で充分である。
大工育成塾の実技指導の内容を見ると、道具の使い方・材料の見分け方・用い方・板図の見方・番付・墨付け・継手・仕口の加工・屋根工事・壁工事・床工事・造作等となっているが、現在は社寺建築に至るまで機械によるプレカットが普及し、間違いの少なくない大工による墨付けよりもコンピュータによるマーキングの方が優れていることは異論をはさむ余地が無い。ゆえに規矩術を主に木材架構法をCADなどを使って教えるべきである。
また、道具の使い方、手入れの仕方なども旧態依然として、鋸、鑿、鉋などの手道具を教えているが、明治時代の人力車が車の基本だからと言って、マイカー時代のドライバーに教えているようなものである。現在の大工道具は釘打ちの玄翁に代わって電動ドライバーが使われ、鉋、鋸などは40年前から電動工具に取って代わられた。また造作材の加工いわゆる下拵えも、現在はほとんど4面プレーナーとかモルダーによる工場加工が主となり、大工の手道具による加工など見たくとも見られない。職人の基本はスポーツ選手と同じ「銭のとれるプロ」であるとすれば、仕事は速く正確にと言われるように、能率的な電動工具をもっともっと駆使して、生産性を上げる職人を育てるべきで、そのためにも、現在の指導カリキュラムを早急に改めなければならない。
残念ながら、伝統建築を守り継承していく、若い後継者を育てようとしている昨今のリーダーには、機械を使うことに嫌悪感を持っている人が多く見受けられることを非常に残念に思う。かといって、刃物研ぎをマスターしなくても良いというのではなく、最初にマスターするのは、電動工具の正しい使い方であり、一通り電動工具を使いこなせるようになった後に研磨機を使って電動工具の替え刃研ぎを覚えることが第一で、次に手作業により砥石の扱いから、鑿、手鉋の研ぎ方を覚えることが第二で、これが現代の施工現場に合った習得順序である。
現在の大工現場においてはすでに鋸、鉋、鑿などの手動道具は補助道具としての存在でしかない。また、建て方のための下拵えにしても梁伏せ図の作成、継手の位置決めなどを先ず覚え、合理的な架構工法を習得させることが第一である。
もちろん、その時に使用する道具はパソコンでありプリンターである。材木業者に軸組設計を任せるのではなく、設計者がプランを作成したら、木造を熟知した大工技能者が、構造的にベストな架構方法としての構造図(伏せ図)をプレカット工場に送って加工させるのが理想である。
もちろん、木構造計算による断面の算定なども、現代の棟梁としてマスターすることが必要である。そのためにも、現在の大工技能者の養成カリキュラムは間違いだらけである。
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未だに住宅は大工が造っていると勘違いしている人が多くいるが、現在は住宅の資質も大幅に向上し、材料、設備から法規に至るまで広く知識が必要とされる時代である。ゆえに、現在の大工は家づくりにおける木工事専門職としての一パートナーでしかなく、現在の家づくりの主役はデザイナー(設計者)と現場施工管理者(現場監督)の二人三脚である。
しかるに多くの識者が「昔のような優秀な大工職人を育てれば良い家が造れる」と大工養成の必要さを述べて、「そのためにもっと補助金を」と言っているのが実情である。
では、主役としての現場管理者の養成はどうなっているのだろうか。
ゼネコンにおいては、それぞれの現場事務所において、現場主任に付き、見習いとして数年かけて管理者として一人前に育てられる。1級とか2級とか、お役所で決めた施工管理技士という国家資格があるが、これも監理職人としては、あろうが、無かろうがあまり関係はない。 住宅以外の建築においては、管理者の技量は当然重要な要素であるが、それにもまして関連(下請け)専門業者の技量が建物の品質を左右する重要な要素である。
木造住宅においては、現場管理者が全てであると言っても過言ではないが、このことについては、工務店自身でもあまり問題提起がない。はっきり言って大工職人は、数だけ言えば過剰である。
足らないのは能率の上がる若手の職人である。現に首都圏では高年齢者(60歳)以上の職人は仕事を探すのに苦労している。
いま、われわれ住宅施工工務店で一番必要なのは、若手のスーパーバイザーとしての施工管理者である。幸い学卒者の採用が容易になった昨今は、元気のよい工務店は将来を見据えて積極的に新卒者を採用し、IT化した新しい住宅の現場管理者の育成に投資している。
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若手大工職人と若手現場管理者は、これからの工務店の生き残りを考えても必要な人材であるのに、大学、高校を含めて専門学校などでも、われわれの求める教育をして貰えていないのが現実である。しかし何もかも他のせいにするのではなく、工務店自身が社内訓練として対処するべきであろう。
戦前、戦後を通じて、裕福な家庭に育った子供は進学し、そうでない子供は義務教育を終えると就職するというパターンが永いこと我が国の通例であったが、いつのまにか高等教育を受けることだけが就職の基本としか考えられないようになってしまった。
学校で就職のための基本訓練を受けるのに月謝を払うことに異議をとなえる者はいない。しかるに、大工職人の養成をするのに何故手間賃を払うのか、何故国の補助を要求するのか、矛盾を感じる。戦前の徒弟制度では、見習小僧は無給があたりまえで食べさせてもらい、盆暮れの小遣いを多少貰う程度だった。
仕事を覚えるために働くことは就職と違う、学校で理屈を覚えるのと大差ないことである。
最近の若者の意識も変わってきて、もの造りの仕事に就きたいという者も少なくないが、ほとんどの者が、給料をいくらくれると聞いてくる者はいない。手当てとして奨学金として、食費ぐらいの支給なら、中小工務店でも喜んで預かることと思う。今これらの新しい徒弟制度の邪魔をしているのは、学校における(中、高校)労働者の権利ばかり強調する就職指導と、労働基準法そして最低賃金法である。法律が必要ならば、文部科学省あたりが技能習得雇用法とでもいうべき新法を制定すべきであろう。
下手な大学を卒業し、就職できた職場で、一から新しい職種に不本意ながら就くという選択よりも、技能職人を選んだならば、自分の希望する職種に中学、高校を終えたら、技能習得訓練生として従事する、新しい受け皿としての徒弟制度が確立されることが必要であり、現在の職業教育の根本的な改革が必要急務である。
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