私は自社を決して能ある工務店だとは思っていないし、他人の評価も当然そうであるが、今まで愚直は愚直なりに改革に取り組んできた。
弊社は、昭和57年に手動式のプレカットラインを設置し、現在も稼動している。その後、呉屋さんの開発した継ぎ手金物に刺激されて、機械プレカット継ぎ手と金物の併用工法を考えた。それと同時に、木造軸組構造の美しさを壁で包み込まず意匠として見せる、いわゆる表しスタイルを採用したシステム工法を開発した。
この工法を、かつて私が大工の養成塾として設立した「番匠塾」にちなみ「番匠型住宅」と名付け、平成9年(財)日本住宅・木材技術センターから合理化システム認定を受けた。その後種々改良して今日に及んでいるが、工務店のつくる住宅のひとつの例としてお伝えしたい。
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上)飛騨高山 吉島家(写真:中野栄吉)
下)飛騨高山 日下部民芸館(写真:中野栄吉) |
番匠型住宅梗概・
〔1-1〕真壁、構造材化粧し工法
木造建築の伝統的な架構式工法を基本に、飛騨高山の吉島家住宅、あるいは日下部民芸館に見られる力強い民家型と、桂離宮の数奇屋風書院の美しさを兼ね備えた現代の和風住宅を目指し、高耐久、耐震、健康の各課題を考慮しながら、大工手間の省力化を図り、経済価格を実現させることを目標にして開発をした。
機械プレカット加工と、継ぎ手金物のそれぞれの長所を活かし併用とする。
また、大工による手加工も、従来あるホゾ取り機にアタッチメントを介してスリットカッターを取り付けることによって、簡単に加工することができる。勿論プレカット工場にての、継ぎ手加工も容易である。
また、造作においても開孔部の枠立て、見切縁の取り付けなどが省け大工工賃の省力化が計れる。 〔1-2〕設計の標準化
モジュールには拘らないが、現在の建材流通寸法に合わせて100cmと91cmを基本寸法とした4p×4p、4p×5pの基本コアを主とし、これに数種のサブコアを配するグリット構成プランを標準とする。〔1-3〕構造の標準化
構造材の接合には、継ぎ手金物と機械プレカット加工とを併用する。小屋組は登り梁方式を原則とし、母屋、垂木を省き、登り梁間に断熱材充填の野地パネルを、登り梁に固定する。耐力壁には筋かいに替わり、構造用合板を室内側に貼った耐力パネルを柱間に納め、パネルフレームを柱、土台、胴差しに固定する。
横架材の線上での継ぎ手を無くし、すべて通し柱勝ちとして、通し柱に一本ものの横架材を継ぎ手金物で固定する。〔1-4〕接合金物の開発
使用木材は、乾燥材であれば樹種には拘らない。ただし土台だけは防蟻上、ヒバ、豪州檜、檜の赤身材とする。防腐注入剤は安全農薬を使用してあっても使用しない。
継ぎ手金物には、当社が新しく開発した、番匠型金物・市場名テクノコネクター(性能認定Sマーク取得済)を使用する。
継ぎ手金物使用の条件として、使用部材の断面は、柱にあっては140平方センチメートル以上、横架材にあっては250平方センチメートル以上を最低とする。
本システムの開発について一番留意したのはこの継ぎ手金物であった。クレテックの使用も検討したが、この金物は木造プレハブ用に適しており、木材表しには、向いていない。
金物と通し柱の接合が通しボルトで固定するため、どうしてもドリル孔のクリアランス分だけ多少精度が落ちる。そこでこの番匠型金物では、クリアランスの少ないパイプボルトを使用すると共にスリットを隠す受けプレートを下部に設け意匠性を高めた。
従来の通し柱と胴差しの継ぎ手仕口では柱材の断面欠損が大きく、先の阪神・淡路大震災でもこの部位の破壊による被害が大であったが、この継ぎ手金物の採用により柱の断面欠損が減少し、構造力学的にも、複数のドリフトピンによる接合の結果、従来のピン接点から、剛接点に近くなり固定度が増加した。このため、ベランダなどの片持梁などが容易に出来るようになった。
〔1-5〕真壁梁桁表し意匠
継ぎ手部位にコネクター金物を採用するため、柱梁とも断面は大きくなる。折角骨太の構造になるのに、これに天井を張ったり、ボードを張って隠してしまっては、もったいない。「住宅は骨と皮と機械とで出来ている」となにかの本に出ていたが、骨を皮で包むのではなくて、骨の間に皮をつけて、木の骨組みと皮である壁を強く美しく表現するのが「番匠型住宅」のスタイルである。
ここ数年の間に梁とか垂木をそのまま表すデザインが多く見受けられるが、ほとんどと言ってよいほど壁は大壁であり、壁の中から太い梁が飛び出しているのが多い。これとて間違いとは言えないが、職人の目から見るとどうも気になって、付け梁でも良いから、梁受けの横架材が一本欲しくなる。
柱が垂直に立ち、胴差しが水平に載り、それに梁が架かる、その姿が自然であり、そこに美しさが生まれるのだと思う。番匠型住宅梗概・
〔2-1〕構造用合板による耐力壁
工務店の中にも未だに、「我が社はすべて無垢材を使い、ベニヤ板(合板)は使いません」などと言っている人がいるが、なぜなのか不思議でならない。昔「釘を一本も使っていない普請だ」と自慢する人がいたことを思い出す。
フェノール樹脂を使った合板ができて80年ぐらいの歴史があり、条件さえ整えばゆうに100年は持つとの試験データーが合板メーカーのカタログに載っていたが、あくまで、条件が整っていればの話で、使い方を間違えれば十数年ももたない。
どんな接着剤でも湿気と熱に弱く、これによって合板の寿命が決まる。
昭和40年代に流行した合板下見板などは、皆十数年で外気に曝されている正面が剥離してしまったことがあるが、耐水合板と謳ってあっても外気に曝した使い方では10年が良いところである。
ゆえに、耐力壁に合板を使う場合はできるだけ熱と湿気からガードされた使い方をしなければならない。2×4工法における枠材の外面に合板を張りそのままモルタルを塗って外壁を仕上げているのを見かけるが、たかだか20・ぐらいのモルタルでは、夏場の西側における合板の正面温度はかなり上昇するので、合板の寿命は太陽熱によってかなり短くなるはずである。
「番匠型住宅」の構造体は、100年はおろか半永久的な耐久力をもたせることを基本にしているので、出来るだけ合板を熱と湿気からガードするために室内側に収めるパネルを開発した。これだと合板の外面に断熱材を充鎮するので、真夏の太陽熱からガードすることが出来る。またこの工法は通し柱勝ちで、横架材の通し柱間の継ぎ手はなく、一本材であるゆえに、管柱と横架材とは一体化しているので、柱間に収めた壁パネルは外れ止めの釘打ちだけで水平力に対抗することができる。
現在、ほとんどの合板使用の耐力壁が柱の外部に釘打ちする工法をとっているが、これだと釘(N50)のせん断力だけに頼っているので、合板の寿命と合わせて、釘の寿命も考慮しなければならない。
最近普及してきた不燃・耐水の構造用ボードなどは、計算上は壁倍率が確保されているが、釘の打ち方が難しく、気をつけながら手打ちで釘がめり込まないようにしないと耐力は100%出ない。
大工に対して釘打ち機のエアー圧力を調整徹底させることは簡単のようで容易ではない。頭部の広がった専用釘をなぜつくらないのかと思う。
これらの理由から、構造用合板は柱の外面に釘打ちするのではなくて、柱間に合板固定材を介して、室内側に固定する事が構造体の耐久性を増加させることになる。
構造的にも筋かいにかかる応力が一点に集中するのに比べ、合板4辺で応力を分担する、いわゆる面剛性が増加するので、斜材による線応力よりはるかに耐震的である。
また、断熱材の充填についても、斜材がない分施工が楽であるなど、構造用合板壁パネルは筋かい工法に比べて数々のメリットがある。
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