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第9回 工務店の経営管理

1.管理の目的

事業の経営は「ひと・もの・金」そして「情報・技術」を集め、それをいかに効率よく管理運営できるかで決まる、とよく言われる。
 工務店の経営においても、規模の大小に関わらず全ての業務が「管理に始まり管理に終る」。これらについては耳にタコができるくらい多くの“コンサルタント”と称する人たちが我々に説教してきた。ある時は煽てられ、あるときは脅かされ、「工務店よしっかリしろ」と激を飛ばされ続けてきた。
 いずれも「ご説ごもっとも」で間違ってはいないのだが、いかんせん工務店そのものを良く理解していない先生方のお説教からは我々工務店が直ちに取り入れることのできるものは少なかった。
 プロとしてのものづくりの基本は「仕事は速く、正確に、そしてより安く」であり、このことが「顧客満足第一」の実現に必須要件であり、管理の目的である。
 管理が重要だからといって、コストを度外視したら本末転倒であり、「より安く」にはならない。
 「建設CALS」とかいう管理用のパソコンソフトが市販されていて、多くの工務店が採用している。ソフトそのものは100万円前後で、手の届かない価格ではないのだが、これとて「帯に短し、襷に長し」で100%活用している工務店は少ないと聞く。
 工務店の形態は同じようでも皆それぞれ違う。経営の規模によって、それぞれの工務店が自社専用の管理ソフトを構築することが必要であり、高い既製ソフトを買うより、パソコンの表計算ソフトやワープロソフト、そして汎用ソフトなどを使用して自社に合ったシステムをつくる方がベターである。

2.工務店の4大管理業務

 管理が伴う工務店の業務は、
1)財務管理  月次試算表、工事台帳、棚卸台帳
2)営業管理  顧客情報、企画設計
3)施工管理  現場管理、予算管理、安全管理、関連業者管理
4)生産管理  工場管理、労務管理
 概ね以上のように分類することができるが、更に細かい分野に分けることもできる。これら4大管理業務は、どれひとつをとっても疎かにはできないものばかりだが、あえて重要度順位をつけるとするならば、施工管理を挙げなければならないだろう。
 施工管理の中には現場、予算、安全、下請業者管理の中分類4項目があり、現場管理の中には更に小分類として、工程、品質が含まれる。

3.工務店の理想的ITシステム

 「お客様満足と高品質設計・施工・メンテナンスはITで武装された情熱のあるスタッフによって日々向上される」
 これはSAREXメンバーでもある埼玉県上福岡市の株式会社奥山建設さんの経営コンセプトで、素晴らしいの一言に尽きる。
 過日、この奥山建設さんの宝とも言うべきノウハウをSAREXの「工務店力向上ワークショップ」にて惜しげもなく公開してくれた。この奥山建設オリジナルのシステムは、
1)スケジュール管理
2)データ管理
3)顧客対応業務システム
4)積算・発注業務システム
から構成されており、工務店業務のすべてがシステム化されている、理想的な管理システムであり、工務店レベルをはるかに超えた優れものであった。
 私はこれを見て「奥山建設さんは工務店ではない」と思ったりもしたが、社長さんのお話を聞くと「営業マンはいらない」とか「頼まれる仕事しかしない」とか、まさに工務店そのものである。恐らく村岡社長さん自身が先頭に立ってこのシステムに時間と金をつぎ込んだであろうと窺い知ることができる。
 アウトソーシングの利用だけではここまでのシステムはできない。優れもののソフトであるが、誰でもが真似のできるものではなく、奥山建設のスタッフだからこそ使いこなすことができるのだと思う。
 翻って弊社(中野工務店)を見てみると、管理のIT化については歴然とした遅れを認めざるを得ない。財務システムこそ会計事務所と同じソフトを使っており、工事台帳、在庫管理台帳、そして経理データのやり取りなど満足できるものなのだが、こと施工管理については奥山建設さんの足元にも及ばない。弊社なりのシステムの構築こそ、急ぐべき我が社の重要課題である。

4.シンプルな施工管理システムを

 住宅のデザインは、シンプルなものほど何故か美しい。そして雨漏りなどの事故も極端に少なくなり、アフターメンテナンスも楽である。
 パソコンの管理ソフトもシンプルなほど、使いやすく、入力ミスも少ない。
 どうも私の乏しい知識で知るところでは、市販されている管理ソフトは「あれもできる、これもできる」と何もかも組み込んでしまって、かえって中途半端になってしまっている感じがする。
 なにも財務に連動する必要もなく、見積りなどは現場管理以前のことであり、設計と連動するものであるから、むしろ、受注管理ソフトに入れるべきものである。
 現場管理ソフトは、現場管理者の責務である予算、安全、発注、工程、品質の五大管理業務のみの連動で充分である。サーバーを介し、社内LANを使って総合管理システムと連動させれば理想的であるが、平均的工務店の年間10棟、20棟の完工数ならばその必要はない。施工管理だけに絞って、もっとシンプルな、自社の実状にあった、使いやすいものを作るべきだと考える。
 どんな優れたシステムでも、使用する人間がしっかりした家づくりのコンセプトを持っていなければ、このシステムを活かすことはできない。そこで今一度、施工管理とは何かを復習してみる。

5.施工管理・現場

 優れた設計で、良材を使い、熟練した職人を使って施工をしても、現場管理がしっかりしていなければ、ベストの建物はできない。
 また、多少難点のある設計でも、多少物足りない職人を使っての施工でも、現場管理(現場監督)がしっかりしていれば、ベターの建物であっても施主にベストの満足をしてもらえることができる。
 工務店の命運を握っているのが現場管理者だといっても過言ではない。幾度も言うが、施工管理とは「仕事は速く、正確に」のモットー通り、工程管理と品質管理とで成り立っている。

6.住宅施工の標準工期と工程管理

 工期は速ければそれで良いとは限らない。ハウスメーカーなどは、75日(2ヵ月半)工期などを売り物にしているところもあるが、やはり注文建築ならば、最低4ヵ月はかかる。4ヵ月かかったとしても、実働日数は100日とない。
 現況ではどの工務店でも余分な大工クルーを抱えることは難しく、建坪40坪位までは2人一組くらいの大工しか現場に入っていない。
 大工を倍にすれば30日位は工期を短縮することができるが、これとて大工工賃を考えると一組でこなすよりも工賃は割高になってしまい、工期短縮のメリットを消してしまう。
 住宅の工期は、基本工期50日にオーバーラップさせた大工工事の工期を加えたものとなる。従って、大工の就労人数を増やして30日で終らせれば80日の工期となり、50日掛かれば100日で完成する。
 工程管理のポイントは、契約書に謳った「工期通りに仕上るよう管理すること」である。 簡単のようで、これがなかなか守れない現場担当者が多い。
 「顧客満足第一」と簡単に口にするが、「顧客不満足」の第一は、ダラダラと仕事をすることであり、天気が良いのに現場にはひとりの職人も入っていないことなどが、顧客の不信感を生じさせているのである。
 しかし、ダラダラ仕事をしたい職人など一人もいない。テキパキ仕事をしたくとも材料が足らない、納まりが決まらない…。度々設計変更などが重なって仕事が進まないのである。このような工程管理では、いくら巧い仕事をしても全てが帳消しである。
 ベテランの現場監督は永年の経験で見事に工期通りに納めるが、すべての担当者がそうできるとは限らない。現場員が5名もいれば、それぞれが個性も違い、能力もバラバラである。
 人間性にだけ頼る社員の使い方から、誰がやっても一定の水準まで成果が上がるシステムなりルールを構築し、これを徹底的に活用しているところが、勝者となれる。己の器量に合ったIT(情報技術)を利用したツールを取り入れて、自社ならではのものとして確立することが肝要であろう。

7.工程表

 工程管理の物差しとして工程表を作るが、棒線式からダイヤフラム・パート式を経て、CPM(クリテカル・パス・メソッド)方式のものへと変わってきた。そして現在はパソコンCALSによる工程表が使われるようになってきている。
 作表方法はどれを採用しようとこれをツールとして使いこなせるかどうかが問題である。こうなると、それぞれの工務店の現場担当者のレベルに合わせたツールが必要で、いくら高度なツールでも、使いこなせるツールでなければ猫に小判で無駄なだけである。
 平均的な工務店の現場員数は5名から10名位であるが、これくらいの構成規模であったら、特別なソフトはなくても済む。ただし、棒線グラフと管理ノートをパソコンを使ってディスプレーで表示させ、必要に応じて直ちにプリントアウトできるのが好ましい。

8.現場担当者の管理能力

 「現場監督1人で年間何棟管理できるか」と人からよく聞かれるが、会社の体制、つくる住宅のグレード等によってかなりの差がある。一般的な注文住宅で建坪40坪前後の家なら、年間3〜5棟。これにメンテナンスやリフォーム工事を加えたものぐらいが平均的な数値であろう。
 当然これらは工務店型注文住宅であって、一人で営業企画、提案から受注契約、施工まで担当した棟数であり、これも一組の大工が年間何棟こなすかで、現場監督の完成させる棟数も違ってくる。
 2人一組の大工クルーを使うのと、4人一組の大工クルーと組んで現場を持つのでは工期が大幅に違ってくるので、ここでも大工の能力が決め手となってしまい、監督の能力をフォローする大事な要素である。
 仕事を速くこなす大工と組むと、自然と工期も短縮されてしまう。そのような現場は見ていて音楽を聴いているようにリズミカルである。また、手の速い職人ほど、きれいな仕事をする者が多い。
 規格型の建売住宅とかハウスメーカーの住宅下請けならば、提案打ち合わせ・契約などの業務は分離されるので、工務店型注文住宅の倍以上の棟数をこなすことができる。

9.ファイル式現場管理ノート

 弊社の現場担当はそれぞれが自分なりの管理システムを使っており、全社的に統一されていない。このことについては問題がなくはないのだが、各自で必要な情報、数値はしっかり管理されている。
 この管理方式は、現場日報、工程表、実行予算書、情報記録、検査リストなどをノート式にファイルしたもので、受発注書控なども現場日報に添付されている。
 この方式は、我が社で昔から行われてきた管理の方法であり、目新しいものは何もない。昔と変わったところと言えば、手書きからワープロの印字に変わり、検査記録にデジカメ撮影の写真が挿入添付されるようになったことぐらいである。
 これはこれで使い慣れたものにとっては結構役に立つツールなのだが、欠点は毎日現場に行かなければならないことである。近くの現場ならよいが、少し離れた現場だと3、4軒の現場廻りで一日が終ってしまい、この管理ノートをまとめるのはいつも残業ということになってしまう。
 それも現場にいる時間よりも車の運転時間の方が長い。建築技術者を雇ったつもりが、自動車運転手を雇い、ついでに現場を見てもらっているというようなものである。
 私は自社の現場管理者に「現場に行く回数の少ない者こそ優秀な現場監督である」と言ったことがあった。デスクワークをするより、エアコンの利いた車でラジオを聞いて時間を潰す方が楽であり、日暮れになればそれで一人前の仕事ができたと思ってしまう。
 仕事のはかどらない職人を「蜩(日暮)職人」と軽蔑した昔の職人達の言葉を思い出す。
 現場に毎日行く時間よりも、事務所で綿密な段取りやEメールなどを使った各職方への手配に時間を掛ける方が効率的だと言いたかったのだが、この真意はなかなか理解してもらえなかった。
 管理コストをいかに節減するかが工務店の価格競争力にとって重要な要素であり、弊社の管理方式も、もっと効率の良いシステムに改善しなければならないと思う。
 毎日現場に行かなくても、各職方に自主管理の協力をしてもらうシステムをつくることなど、改善しなければならなくなってきた。カメラ付き携帯電話とかコンパクトなデジカメとかが登場して、一々写真を現像・印画しなくてもよくなった。また写真の電送が簡単になってきた今こそ、ITを利用した、個々が中心の現場管理から事務所中心のトータル管理にと変革できなければ、価格競争から取り残されるのは必然である。

10.施工品質管理

現場管理は工程管理と品質管理が重要な要素であるが、最近は性能保証制度、完成保証制度などの普及により品質管理のウェイトが高まってきた。また、暇疵担保責任に伴う損害賠償責任などが法文化され、施工記録の保管が重要になってきた。
 数年前まではASAとかISOといえばフィルムの感度と思っていたが、現在「ISO」と言えば、誰でも品質管理の国際規格と言うようになった。
I nternational 国際 設立時(1980年代)で日本を含め約60カ国
S tandardization 標準化 世界共通の規格として統一化を図ること
O rganization 機構 組織機構
ISO9000 品質マネジメントシステムに関する国際規格 ISO9000の目的に「組織は『顧客が満足する製品』を提供することにより、『顧客の信頼』を得ること」となっており、家づくりに携わる者の必須条件である「顧客満足」と一致する。
 最近、周囲の工務店仲間でもこの認証を取得するものが増えてきた。工務店がハウスメーカーに優るとも劣らない技術と管理能力を持していることをユーザーに認知させる意味からもISOの取得は望ましいことである。
 しかし、誰も彼もが取得できるものではなく、金さえ掛ければ取れるものでもない。
 ISOを取得できる工務店の条件に会社の規模は関係ない。極論を言えば、社員一人の企業でも取れるとのことである。取得するためには、社員なり役員がリーダーとして充分にリーダーシップを発揮し、組織の目的及び方向を一致させることができるかどうかが問われる。また、全ての社員、関連業者の全面的な参画を得ることが原則である。
 そして、この認証を取るだけでは意味がない。目的である顧客満足実現のために「どう運用するか」が重要である。また、認証後でも3年後の更新審査、半年後のサーベイランス(遵守状況のチェック)などを受けなければならない。
 当然、社員の事務量も増大するし、経費も増える。
 品質マネジメントの原則の一つとして掲げてある「顧客重視」では、「組織はその顧客に依存しており、そのために、現在及び将来のニーズを理解し顧客要求事項を満たし、顧客の期待を超えるように努力すべきである」とまさに我々家づくりに従事する者の指針となるべき考えが示されている。
 我がSAREXの目標である「地域に必要とされる工務店」を目指すならば、技術力の向上と併せて管理力の向上が最重要課題であることは間違いのないことである。
 故に、ISOシステムの認証は万難を排しても取得すべき価値あるものだと思う。

11.良いことは真似しよう

 SAREXの主な活動の一つにメンバー工務店を訪れて勉強会を行う「工務店力向上ワークショップ」というのがある。これはメンバーならば誰でも無料で参加でき、情報の交換ができるというものである。
 今までの我々は、ややもすると「お山の大将我一人」・・・で唯我独尊を決め込むことが多かったが、我がSAREXは、お互いのノウハウを惜しみなく公開し、共有し合っている。その名の通り「住環境価値向上事業協同組合」であり、これに類似したグループは他には存在しない。
 工務店の管理業務についても、先に述べたITシステムの上福岡の奥山建設さんの他、ISO認証システムの大和市の青木工務店さんなど見習うべき仲間が多い。弊社(中野工務店)でも、遅れているこれらのシステムを速やかに確立すべく努力中である。

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