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第4回 工務店のつくる家とメーカー住宅(I)

1.メーカー住宅の優れもの

 「我々工務店がつくる住宅と、ハウスメーカーと呼ばれる住宅会社のつくる家との違いははっきりしている」。こう断言すると、大部分の人が「そうではない」と答えることは想像に難くない。この違いをはっきり認識し、自社独自のスタイルを確立すべく努力している工務店ならば、この住宅建築の変換期を無事に乗り切り、工務店として持続することが可能であろう。
 私は自分でも不思議なくらい住宅展示場に行ったことがない。正確には「一部のメ−カーを除いて」と言うべきだが、過去に数軒のモデル住宅を見学した。
 その住宅は、今も健闘している木質系の日本ホームズと鉄骨系の旭化成の2社である。
 日本ホームズは昭和30年代末、アメリカのナショナルホームズという住宅会社の住宅などを参考にスタートした会社であり、アメリカのデザイナーによるナチュラルネイチャーとか、プリンスホームとかいうブランドの住宅を販売していたが、同社に資本参加している我が国屈指のゼネコン、竹中工務店の影響もあって、徐々に自社独自の日本の2×4を確立した。
 他の2×4メーカーやプレハブ住宅の多くが未だに欧米の模倣から抜けきれず、自動車のように次から次へと、モデルチェンジに明け暮れることしか販売の手段をもたないのに比べ、日本ホームズは住宅に対する確個たる信念を持って家づくりをしている。
 もうひとつの旭化成が開発したヘーベルハウスは、これも昭和30年代後半に旭化成が当時のソ連から技術導入した軽量発泡コンクリートの壁材を住宅に生かそうと開発した住宅が原点であるが、軽量鉄骨の経済性と軽量発泡コンクリートの不燃性をうまく生かしたデザインで、工業化住宅の中では群を抜いている。
 この2社のつくる家は、構造はもとよりデザインが格調高い。もし、私が他の職業人だったとして、適当な工務店に出合えなかったとしたら、自分の家を建てる時はこの2社のうちから選んだであろうと思う。
 過去数年の間に工業化住宅メーカーの中には格段の進歩を遂げたものが少なくない。在来工法住宅業者が彼らを目の仇にする時代はとうの昔に過ぎ去った。
 そしてプレハブ業界、2×4業界に共通していることとしては、品質管理の向上を挙げることができる。日本ホームズと並んで品質の面で定評のある三井ホームの各職方による自主検査をうまく取り入れた品質管理システムなどには学ぶべき点が多い。
 だからといって、これらのスタイルをコピーして、工務店なら同じデザインでかなり安くできる、などと営業に使うような工務店があったとしたら、その工務店の前途はますます暗いものとなるであろう。

2.工務店スタイルとメーカー住宅の違い

1.メーカー住宅の優れもの
 「我々工務店がつくる住宅と、ハウスメーカーと呼ばれる住宅会社のつくる家との違いははっきりしている」。こう断言すると、大部分の人が「そうではない」と答えることは想像に難くない。この違いをはっきり認識し、自社独自のスタイルを確立すべく努力している工務店ならば、この住宅建築の変換期を無事に乗り切り、工務店として持続することが可能であろう。
 私は自分でも不思議なくらい住宅展示場に行ったことがない。正確には「一部のメ−カーを除いて」と言うべきだが、過去に数軒のモデル住宅を見学した。
 その住宅は、今も健闘している木質系の日本ホームズと鉄骨系の旭化成の2社である。
 日本ホームズは昭和30年代末、アメリカのナショナルホームズという住宅会社の住宅などを参考にスタートした会社であり、アメリカのデザイナーによるナチュラルネイチャーとか、プリンスホームとかいうブランドの住宅を販売していたが、同社に資本参加している我が国屈指のゼネコン、竹中工務店の影響もあって、徐々に自社独自の日本の2×4を確立した。
 他の2×4メーカーやプレハブ住宅の多くが未だに欧米の模倣から抜けきれず、自動車のように次から次へと、モデルチェンジに明け暮れることしか販売の手段をもたないのに比べ、日本ホームズは住宅に対する確個たる信念を持って家づくりをしている。
 もうひとつの旭化成が開発したヘーベルハウスは、これも昭和30年代後半に旭化成が当時のソ連から技術導入した軽量発泡コンクリートの壁材を住宅に生かそうと開発した住宅が原点であるが、軽量鉄骨の経済性と軽量発泡コンクリートの不燃性をうまく生かしたデザインで、工業化住宅の中では群を抜いている。
 この2社のつくる家は、構造はもとよりデザインが格調高い。もし、私が他の職業人だったとして、適当な工務店に出合えなかったとしたら、自分の家を建てる時はこの2社のうちから選んだであろうと思う。
 過去数年の間に工業化住宅メーカーの中には格段の進歩を遂げたものが少なくない。在来工法住宅業者が彼らを目の仇にする時代はとうの昔に過ぎ去った。
 そしてプレハブ業界、2×4業界に共通していることとしては、品質管理の向上を挙げることができる。日本ホームズと並んで品質の面で定評のある三井ホームの各職方による自主検査をうまく取り入れた品質管理システムなどには学ぶべき点が多い。
 だからといって、これらのスタイルをコピーして、工務店なら同じデザインでかなり安くできる、などと営業に使うような工務店があったとしたら、その工務店の前途はますます暗いものとなるであろう。2.工務店スタイルとメーカー住宅の違い

3.施主参加の家づくり

 ここ数年、住宅を建てる人の年令が、40代から30代と若くなってきたが、最近、弊社の作業場には土日の休日になると、弁当持参の若い施主の家族が集まってくるようになってきた。そして、家族中でデッキ材にガードオイルを塗ったりしている。
 また、現場ではフロアのワックス掛けとか、納戸の棚の取り付けはパパの仕事として、「その分職人さんの手間賃から除外して」との要望が多くなってきた。
 このことは単に予算の節約とばかりは言えず、DIY時代の若い世代が「できるところは自分たちの手でつくりたい」ということである。
 昔は住宅の建築をすると「施主は普請疲れになって寝込んでしまう」などとよく言われたものだが、現在は違って、施工者に勝手な注文こそ出しても、気兼ねをするような施主は恐らくいない。
 一生に1度か2度の家づくりで、ストレスをため込み寝込んでしまうのではなくて、ファミリーで家づくりに参加して楽しみたいとの要望が強くなってきたからである。
 弊社は東京都近郊の市川市に本拠を置き、施工エリアとしては、半径50・ぐらいまでであるが、新築の80%は建て替えである。
 従って、建て替え中の仮住居として仮住まいの住宅を提供するサービスを始めて20数年経つが、最近は大規模リフォームが増えてきて、現在用意している戸建て住宅3戸では不足するようになってきた。
 このことひとつをとっても、これらのユーザーの要望にすぐ対応できるのは我々工務店であり、企画型の商品を売っている商社工務店(大手住宅メーカー)では、やりたくてもやれないことである。

4.実費精算方式

 大戦前までは、建築を生業とする親方たちの呼称は、家大工棟梁と宮大工棟梁に加えて、今で言う公共建築とか工場とかの建物を請け負う者たちを「請負師」と呼んだ。
 工務店のルーツが棟梁であり、建設会社のルーツが請負師であることから、「組」と呼ばれる組織に替わっていったという歴史がある。
 町屋住宅、農家住宅などを問わず、棟梁たちはこれらの仕事場を旦那場と言った。
 そして自分達を出入り職人とか、お抱え職人とか言って、発注者を施主と呼んだ。
 請負師と違い、棟梁始め職人達はまず自分達の技能だけを売り物にしていて、材木など資材から口銭を取ろうと考える者はいなかった。家づくりに携わる彼らは、手間賃以外に利を乗せることなど考えてもいなかったのである。
 従って、棟梁達は請負師とは違い、宮大工・家大工ともに、請負契約は少なく大部分は実費精算方式であった。
 当時は、建て主も大工と一緒になって、材木を選定し、デザインや仕様を考えながら工事を進めるというやり方が主だったので、工事完了後の精算が一般的であった。
 職人の手間賃も請求しただけ施主は支払ってくれた。
 職人の手間賃までを値切る今の施主とは大違いである。
 TV番組『なんでも鑑定団』の鑑定人のセリフではないが、「いい仕事してますねぇ」は当たり前で、きちんと手間賃を払っていたからである。
 そして普請をするには、約1割の予備費をみることが常識であり、家づくりのルールであった。家づくりに設計変更は付き物であったからである。
 これは自分の金で家を建てていた時代の話で、現在のようにローン(借金)で家を建てている時代には、一割値切らなければ予算が足りなくなるので、好きで値切っている訳ではないのだ、と理解すれば納得することができる。
 仲間の工務店に最近の粗利益(施工経費)を報告してもらったが、ほとんどの工務店が平均5%以上のダウンであった。丁度、消費税分5%が値引きという名目で我々に負担させられたということであろう。
 これからの工務店は、住宅メーカーの商品販売とは違った工事契約の時代になっていくと思われる。元の棟梁時代に戻れとは言わないが、今の工事見積のあり方を見直して、掛かる経費とか、適正な工賃、資材費などをそのまま適正に計上し、施工管理費など頂くものは頂くという、どちらかと言うと実費精算方式的な工事契約に変わっていくと思われる。
 発注者の家づくりに対するこだわりが強ければ強いほど、この方式に切り替えることを模索してはどうだろうか。これこそ、工務店CALSを駆使すれば、つくり手・住まい手双方が納得できる積算リストが出来上がると思う。

5.良い住宅を格安につくる、棟梁型工務店

 ここで言う良い住宅とは、建て主の希望を100%取り入れた、飽きのこない持続可能な家のことである。
 コストを掛ければよいというものではないが、ある程度、金を掛けなければ満足できるものはできない。要は掛けたコスト以上の出来栄えが得られたかどうかであり、掛けた資金も出来栄えも共に納得でき、満足できる住宅をどこよりも廉価につくる唯一の方法がある。
 一般に工務店の経費(販売管理費)は、完工高の概ね10〜15%くらいであるが、この経費をゼロにすればこの分15%を省くことができる。
 私が社会に出て最初に就いた職業は、大工であった。その後、大工だけでは家づくりはできないと気がつき、設計を学んだ。ライセンスも必要となり、大工技能士に加え建築士、建築施工管理技士などを取得した。
 故に、CAD/CAMによるプレカットなどに依存しなくても、自分で図面を書き、諸届を済ませ、建前から造作までを今でもできる。
 私が、昔の棟梁として、材木屋から材料を仕入れ、自ら墨つけをして材木を刻み、建前をして、造作をする。そして各職方を手配して施主とともに、家を完成させる。
 これらを全部、手元(助手&見習)を使って一人でこなす。
 携帯電話が普及したお蔭で事務所もいらない、経理担当者もいらない、経理は会計事務所にアウトソーシングすればよい。当然、数はこなせないが、年間2〜3棟はできる。
 そのかわり、施主に気に入られれば、1年でも2年でも待ってくれる。棟梁に営業など無縁のものである。
 これとは別の話になるが、中堅の工務店の中には、棟梁方式をうまく取り入れ、間接経費をほとんど掛けず、良い住宅を廉価で提供している工務店が地方に多い。
 私の知っているだけでも、秋田の池田建築店・池田新一郎さん、岩手のシンタックホーム・管野照夫さんなど、多くの棟梁型工務店が活躍している。
 野球には選手を兼ねた監督がいて、プレーヤーになったり、マネージャーになったりで、試合をすることがあるが、家づくりにおいても職人として木工事を受け持ちながら現場監督をも兼ねることができる。
 本稿第2回の経営適正規模の項でも述べたが、商社型のメーカーと比べて、工務店は経費が低く抑えられることが優位である。従って、間接の経費をいかに節約できるかが良い家を格安につくる唯一の方法である。
 最近、どこかの設計事務所がNPO法人を発足させ、住宅の価格を下げるために、工務店の重層経費を省き、施主がダイレクトに各職方に発注するシステムを立ち上げたというニュースをTVで見たが、工務店を設計事務所に変えただけのことでしかない。
 ナンセンスな話で、どう考えても「工務店をはずしたら2割も安くできる」との主張は、根拠のない話である。
 こんな話を公共のメディアで流すTV局の無知にもあきれる。
 家づくりのルールを知らない者たちが、さも正義ぶって発表するのは、ユーザーをたぶらかすこと以外に意味がない。
 一体誰が職方たちの指揮をとるのか。コンダクターのいないオーケストラなど論外で、まとまるわけがない。誰がやってもディレクターフィー(取りまとめ管理費)は掛かる。誰がやっても掛かるものは掛かるのだ。

6.ローコスト住宅ってなんだ

住宅のデザインを考える前に、「ローコスト住宅ってなんだ」ということを解明してみたい。
 住宅の建設に、割安価格はあっても、激安価格はありえない。我々工務店がつくる住宅は、全国で多少の手間賃の格差があるにせよ、最低で坪当たり(使いたくない秤だが)40万円前後である。フランチャイズ・システム住宅のほとんどがローコストを売り物にしているが、彼等の提示している価格、30万円前後をそのまま額面どおりには受け取れない。
 最近のことだが、あるFCグループに加盟している工務店に住宅の新築を依頼したが、着工と同時にこの業者のことが不安になり、人を介して相談に見えた人の話を聞く機会があった。 
 なにが不安かと聞くと、いろいろと質問するが親切に返事をくれないことから、期待通りの家ができるかどうかと不安になったとのことであった。
 そして、驚いたことに「契約書を見せてください」と言うと、仕上げ表に総工費のみ書いてある紙切れ1枚と、前渡金の領収書を持ってきて「契約に係わる書類はこれだけです」と言った。
 仕上げ表は外部では屋根カラーベスト、外壁サイディング、内部では床フローリング、壁クロス、天井クロスと記してあるだけであった。
 ことの成り行きから、現場を見ることになった。
 しかし基礎にしても、軸組みにしても、それほど心配するような仕事はしていなかった。あえて言うならば、我々では使わない防腐剤注入土台とか、集成柱以外はグリーン材とか、床下地のコンパネ合板などが少し気になった程度であった。
 ならばこの業者のどこが不安なのかと考えると、それは全て現場担当者の資質の問題であることがわかってきた。
 「ゼネコンの現場にいて、住宅は初めて」という担当者は工事途中で退社してしまった。親切に返事をしたくも住宅を知らず、建て主の質問に答えられなかったのである。
 出来上がって、建て主には「良くできているから心配いらない」と伝えたが、入居を少し延ばし、ホルマリン臭だけは消えてから引越しするように勧めた。
 サイディング下見貼りの外観、中に入れば合板フロアにクロス貼りの内装、印刷シートをラミネートした枠材にドアという仕様には何の感動も起きてこなかった。
 建物の割には不釣合いなシステムキッチンに少し驚いたが、聞けば標準仕様に追加したオプションだとのことであった。
 これで、坪当たり39万円という価格(追加オプションを入れれば坪42万円)は果たしてリーズナブルな価格だろうかと考えてしまった。
 このFCグループはかなり名の知れたグループであり、加盟工務店も近年増えてきている。
 たまたまこのグループから退会した工務店から話を聞くことができたが、何のことはない、数百万円の加盟金を払って、工事単価表を買うだけのことであった。
 そこに記載されている工事単価は、市場価格より2〜3割安く、大工の手間にしても、鳶土工にしても、まともな単価ではなかった。
 その単価表を標準として各下請けに仕事を押し付け、工務店だけは25%の粗利を確保できるというシステムであった。
 多かれ少なかれFCグループの営業戦略は似たり寄ったりである。
 彼らの戦略は、他を泣かせても自分だけは笑えるようにするシステムであり、商道から言っても、匠道から言っても、邪道であり論外のことである。
 とは言っても、ハウスメーカーは勿論のこと、多くの工務店にしても似たり寄ったりのことをしているのだから、このFCグループだけを責めるのは片手落ちであろう。
 しかし、何も知らないユーザーがやっと手に入れたマイホームが職人泣かせの塊であると知ったら、果たして心から喜ぶことができるであろうか。
 自分の金儲けのために他を犠牲にしてもよい、というシステムは成り立たない。最も、当事者はこのことをわかっていない。わかれば恥ずかしくて看板など出せないはずだ。

7.大手ハウスメーカーのごまかし商法

 2001年、あるハウスメーカーが「L・25」という企画住宅を坪当たり25万円で売り出して、1ヵ月の間に4,000棟を販売した、とTVでも取り上げられるほどのニュースになった。
 このニュースを聞いて「世の中にはいかに無知な者が多いことか」と思ったのは私だけではなかっただろう。
 その建物は平屋建てであるが、45度勾配の屋根がかかっており、小屋裏利用の2階建てである。
 普通このような場合、小屋裏の面積は建物面積に算入しないのが普通であるが、この場合は建坪の8割を建築面積に入れて、坪単価を出している。
 おまけにメーターモジュールの計算である。3尺モジュールでは、0.91×0.91=0.828平方メートルだが、メーターモジュールでは、1.0×1.0=1.0平方メートルであり、3尺モジュールに比べ2割近く面積が広くなる。その広い面積で総工費を割って坪単価25万円を算出したものである。3尺四方だろうと、1m四方だろうと、大工の手間や材料は違わない。従ってこの商品の坪単価は25万円ではなく、40万位についている。
 このようなごまかし商法が長続きする訳がなく、今では話題すら出てこない。   
 工務店はいたずらにFC商法や外断熱工法などに振り回されないで、自社ならではの家づくりを確立すべきである。

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