戦後、住宅建設の世界に多くの異業種が参入し、大工棟梁からその主役の座を奪い取っていった。不動産業界、そして木材業界を始めとして資材供給業者などが本来ならば得意先である大工・工務店の仕事を取り上げて、その資本力にものを言わせて住宅メーカーをつくり、ローコスト住宅を売り物に、直接ユーザーに住宅を売った。
今まで材料を買ってやっていたのが、ある日から競合する商売敵となってしまったのだが、根性のない大工・工務店は不買運動を起こすこともできず、相変わらず従前通り材を仕入れざるを得なかった。他の業界では考えられないことである。
あるサッシメーカーは、サッシに加えてすべての建材を扱うと共に、大工・工務店をFCグループとして囲い込んだ。結果、今までの大工・工務店が仕事を取れなくなると、今度は下請けとしてグループに従属させ、手間請けのみの労務提供をさせた。
また昨今では、パワービルダーと呼ばれる建売屋が幅を利かせているが、これとて仕事が取れなくなり、背に腹は変えられなくなった大工・工務店を、安い単価で仕事をさせることで成り立っている商売である。
しかし、大工職人が単なる下請けになろうとも、大工職人が木造住宅の命であることには変わらない。もっと大工を始め、住宅に携わる職人達を優遇できる業界に変わらなければならないと痛感する。
しかし、大工職人(工務店を含めて)にも問題がなくはない。いつのまにか匠道(職人根性)を忘れ、損か得かの金儲けが第一の世間の風潮に巻き込まれてしまった…と言っても当たらずとも遠からずであろう。
工務店は専属の大工クルーを雇用しているが、単発で外注する例もある。この場合、継続して外注依頼することはあまりない。少しでも単価の良い仕事を探して渡り歩くため、腰を落ち着けてじっくり仕事をすることができないのである。
職人の手間(工賃)は外注、専属を問わず出来高払いが主流で、その人の働きに比例して支払う事が原則であるが、楽をして金だけは人並み以上に取りたいという職人が多く存在することも残念ながら事実である。
職人の手間賃(給料)は一般のサラリーマンに比べて確かに低い。中堅の職人でも平均年収550万円前後である。そして退職金などの制度はあまりない。その上に道具代、車の経費、各保険料など全て自己負担となるので、その分を稼ぐとなると就労時間の延長しかなく、週50から60時間は働いている。国で定めた週40時間労働を無視せざるを得ないのが現実である。雇用者である工務店も大工に無理をさせること無く、満足して喜んでもらえるような労働環境を構築するように一段の努力が必要であろう。いくら「顧客満足第一」と叫んでも、職人が不満を持ちながら仕方なく仕事をしているようでは、真の顧客満足は得られない。
昨今、「大工育成」などと叫ばれ、塾や訓練校などが話題になっているが、現在の大工を始めとする職人の世界をもっと夢のあるものに変えなければ、折角参入してきた若者たちに失望を与えるだけで、やがては、この世界から逃げ出すことになるであろうと危惧するのは私だけではないと思う。この現状をどう打開して、職人に満足の与えられる職場環境を構築することができるかが、我々工務店主の避けては通れない課題である。
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