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第2回 工務店経営者の本分

1.工務店の基本

 「ハウスメーカー」に対し、我々地域工務店を指して「大工・工務店」と一括りで呼ばれることが多いが、大工とは技能職人の呼称であり、住宅をプロデュースするものではない。昔は、住宅建築業を工務店とは言わず「大工棟梁」と呼んだ。
 現在、住宅供給業者の大半が商社販売業であるが、これらは皆異業種からの参入組であり、戦後に出てきたものである。
 戦前の大工棟梁においては、個人経営がほとんどであったが、自主申告を主とした納税制度の変革に伴い、自営業の法人化が進んだ。大工棟梁に限らず、八百屋、魚屋のおやじさんまでが「社長」となった訳だが、経営の本質が変わった訳ではなく、「大工の親方」が「工務店社長」と呼ばれるようになっただけである。
 昔の棟梁は、「統領」と同義語であり、英語でいうプレジデントである。ちなみに「統領」を辞書でひくと、「人々をまとめて治める者」と出てくるが、まさに昔の棟梁は大工を中心に多くの職方をまとめて治めていた。このことは現在でも住宅建築業としての工務店の基本となるものである。
 この場合の「人々」とは、直雇の大工を中心に、下請けとして屋根、板金、左官、建具、鳶などの専門職であり、パートナーとして材木商がいた。
 棟梁の責務として、この人々をまとめて治めることの他に、もうひとつ大事な仕事があった。
 それは大工職人の育成であり、更に一定の技能と人格を形成した者には、自分のところの世話役として、また棟梁として独立を応援するなど、後継者の育成にも務めた。
 このような徒弟制度は封建的であると言われ、戦後まもなく消えて行ったが、徒弟制度の滅私奉公の部分だけが取り上げられ、棟梁の家族の一員として生活を共にし、徒弟者にとって大事な成長期を親代わりとして、技能はもとより、人格の形成まで面倒を見ながら立派に育成し、社会に貢献したことは忘れられてしまった。
 これらの徒弟制度は、現在の企業化した学校経営者とは比べ物にならないほど、職業教育において社会に有用な存在であったが、このような良い点まで「封建的」というだけで捨てられた。今こそ現代の家づくりに見合った新しい徒弟制度を考えるべきであろう。
 「工務店とは何か」を論ずるとき、以上の要件を満たしている者のみ工務店として認知すべきである。未だに家づくりの中心は大工であり、腕の良い大工さえ育てれば良い住宅ができると信じてやまない人達が少なくない。
 昔、棟梁が家づくりの主役であった頃と違い、現在の住宅は構造的、設備的にも大きく進化してきている。ゆえに、今の住宅建設においての大工は、木工事専門職としての一パートナーでしかない。
 現在の家づくりの主役は、デザイナー(設計職)と施工管理者(現場監督)であり、彼らのイコールパートナーとしての二人三脚こそが良い家を生み出だす元である。
 建築家と称する人たちが、住宅にデザインを持ち込まず、手をつけなかった時代は、棟梁が構造・意匠とも受け持っていた。それは民家なら民家の、町屋なら町屋の型が伝承されていて、棟梁は普請のグレード(等級)と、間取りだけを創造すれば済んだ時代であったからである。

2.家づくりのプロダクション

 映画産業華やかなりし頃、松竹、東宝、日活などの大手映画会社に混じって俳優、演出家などが独立プロダクションを設立し、数多くの名作を発表した時代があった。戦後では黒澤明の黒澤プロダクション、石原裕次郎の石原プロモーションなどが有名である。
 彼等は大手映画製作会社に縛られることなく、自ら企画し納得した作品のみを創ってきた。それは商業としての利潤追求を主としたものではなく、映画文化の担い手として良い作品を世に出したいという想いが全てであったに違いない。
 映画産業と住宅産業とはつくるものもつくり方も大きな違いがあり、同一視することはできないが、映画であれ住宅であれ、少なくとも「良いものをつくり、社会の共感を得たい」という想いは違わないと思う。
 映画製作も、脚本家、演出家(監督)、俳優、美術など多くのスタッフをまとめて治めて、いかにベストな映画を制作していくかがプロデューサーの仕事である。
 住宅づくりも設計職、大工職を始め、各職方、施工管理職、資材供給者、経理職などのスタッフをまとめて、それぞれの職分を全うさせるべく「治め」ていくのが、プロデューサーとしての工務店のなすべき仕事である。
 このことについては大手住宅メーカーと工務店とに差異はない。あるのはそれぞれスタッフの技量の差だけであり、企業規模の大小に関係ない。
 他社に負けない、自社ならではの家づくりを確立しようと思うならば、まず、スタッフの技量向上と人格形成を図り育成して治めていくことが肝要である。
 ハウスメーカー及び住宅販売不動産業者は、設計職以外の、スタッフとしての技能職を治めることができないゆえに、ブランドは有っても住宅の企画設計、部材の製造以外は、工務店に依存するしかないのが現状である。
 時代は変わっても、家づくりの中核は、職人というスタッフをまとめて治めている工務店であることに間違いはない。家づくりのプロダクションとして小なりといえども、大手住宅メーカーに伍して、堂々と優れた家づくりができるのが工務店である。 

3.適正経営規模の構築

 「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」ということわざがある。これは「人それぞれ分に応じた行動、言動をせよ」ということだが、いかなる事業経営においても、大切なことは己の分を知ることであろう。
 工務店経営においても、まず適正な経営規模の構築から始まる。
 では何をもって適正とするかだが、筆者は、工務店の経営における適正規模とは、住宅コストに占める間接経費の割合を最小限に絞れて、効率のよい管理効果を得られる経営規模のことだと解している。
1)達成可能な年間受注量を策定する。
2)年間完成工事高から達成可能粗利益を算出する。
3)粗利益の95%以内で販売管理費、一般管理費を策定する(経常利益を5%とした場合)。
4)管理費(固定費)により人件費、諸経費を予算化する。
5)諸経費の支出が収入高を越えないようにする。
 適正経営規模算定の基礎となるものは、あくまで年間の収入高(売上高)であり、完成棟数に営繕工事を加えた請負金額の合計である。これによって、従業員の数も家賃も車輌の台数も全てが決まる。この場合、分子である完工高が増え、分母である諸経費の無駄を無くして必要最小限に抑えられると、工事コストに占める経費の割合が減り、それだけ競争力が増大する。
 企業において赤字は罪悪といわれるが、「甲羅に似せて穴を掘る」適正経営規模の構築こそ、工務店経営にとっての必須条件である。
 昭和30年代の後半に前積式割賦販売の住宅販売業が出現し、我々工務店を協力施工店の名の下に下請けとして組織し施工を任せた。一昨年頃相次いでこれらのメーカーは消えていったが、これらの業者は金融業に徹し、多くの営業マンによる積み立て契約に始まる住宅の月賦販売と設計業務のみを主な業務とし、住宅生産業務は現場管理を含めてすべて傘下工務店を下請けとして活用した。
 まだプレハブ住宅も2×4工法も、そして大手住宅メーカーも現れていなかった時代のことだが、筆者はこれらの業態を見て、住宅メーカー恐れるに足らずと感じたことを思い出す。
 なぜなら宣伝という撒き餌に、数にものを言わせたセールス活動以外の知恵は持っていなかったからである。つくる住宅は、これら住宅メーカーでも我々地場工務店でも差異はなかった。
 我々工務店のつくる住宅が、大手ハウスメーカーのつくる住宅に比べて優ることはあっても、劣ることがないとするならば、工務店の何倍かの経費の掛かる住宅メーカーは工務店に比べて大きなハンディを負っている。住宅の建設コストに占める、直接経費、間接経費の割合が高ければ高いほど価格競争力は低下する。

4.工務店に大小はない

 我々を指して「中小工務店」と呼ばれることが少なくないが、工務店を計るのに技術、信用力の大小はあっても、規模の大小は関係ない。
 大規模=優良工務店ではない。規模が大きくなれば、それはもう工務店とは呼ばれない(工務店という名のゼネコン、竹中工務店は別として)。なぜならば、数量を追うためには組織内に販売部門を作り、宣伝・広告費をかけるなど住宅販売業化しなければならず、生産型の工務店とは性格の異なる業態に変わるからである。
 年間の完工棟数が2、3棟であっても価値ある良い住宅を割安な価格で提供でき、顧客に100%の満足を与えることができるならば、この工務店はベストと言える。
 しかし、年間50棟もつくれる業者であっても、そのうちの何棟かを取りこぼし、全ての顧客から満足を得ることができなかったとするならば、この工務店は規模は大きいが優良工務店とは言えない。
 では、工務店は小規模経営に留まり生成発展しなくてもよいのかと言うと、そうではない。どんな企業でも時間とともに成長するのが理想の姿である。工務店の社長は統領として人をまとめて治めるものであるならば、社員の中から志を同じにするものを統領として育て、分社して独立させるのも良し、支店として任せるのも良しである。
 要は適正規模の事業体として、いかにしたら効率経営に徹せられるかを追求して、品質はもとより、建築コストの面でも大手ハウスメーカーを超えなければならない。
 理想的な工務店の経営規模として、社員数10名前後で1チームを作る。人員構成は、統括者に設計企画2名、経理1名、施工監理者5名、労務1名の計10人で、年間15棟前後の新築と増改築などを加えて完成工事高5億円以上を達成させる。
 専任の営業社員はこの規模では必要ない。工務店の営業の基本は、縁あって訪ねてきてくれた建築希望者の信頼をいかに得るかである。
 設計者と施工管理者が共に顧客対応者となる。
 これらを1事業部1チームとしてグループ化して、企業規模の拡大を図ることが理想であろう。
 先人の知恵は、暖簾分けと称してこれを制度化していた。そして棟梁は、一番弟子、二番弟子とつぎつぎに自分の分身ともいうべき統括者を育ててきた。
 「地域に必要とされる工務店になれ」と自他共に口にするが、いかなる企業でも社会の用となれない企業は消滅の道しかない。
 工務店の本分として、工務店が尽くすべき義務を思考するとき、その行動全てが顧客のためになるかどうかが第一であり、企業の拡大・発展は、顧客の満足度向上に正比例して増大するものである。

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