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第6回 工務店のつくる家とメーカー住宅(III)

1.自社オリジナル「番匠型住宅」つづき

桁、登り梁固定ボルト

番匠型住宅梗概・

〔2-2〕屋根スタイルの変遷と登り梁工法
 住宅の外観スタイルは、屋根の構造によって決まる。戦前から、昭和30年ごろまでの住宅は町場大工と称される棟梁がその設計を負っていたが、その形は概ね「切妻」「方形」「入母屋」の3種類であった。
 その建物のグレードによって上から入母屋、方形、切妻の順に決まっていて、葺き材もほとんどが和瓦であって、金属屋根は現在のような贅沢なものはなく、“トタン屋根”と称する亜鉛鍍金鋼板の平板葺きか、“なまこ”と称する波型鋼板葺きがあったが、これらはほとんどローコストの貸家普請(賃貸住宅)に使われ、注文住宅には使わなかった。
 その後、神社仏閣建築の銅板瓦棒葺きなどが緩勾配屋根に用いられるようになったが、いずれにしても立面スタイルによって屋根の形、勾配を決め、それによって葺き上げ材を選択する、というルールがあった。

片持ち母屋鼻
 現在はデザイナーの好みでも施主の好みでもなく、敷地の面積が屋根の形を決める大きな要素となってしまった。首都圏ではパワービルダーによる建売と、地場工務店による建て替え需要がほとんどであるが、建売は勿論のこと、建て替え住宅の敷地も狭小地がほとんどで、隣地から50・も離せれば良い方である。和風のプロポーションは軒の出で決まるが、ほとんど「雨樋をつけるのが精一杯」というところである。
 狭小地に、いかに容積を大きく確保できるかが注文者の最大の慾求であるが、それには地下室をつくるか、小屋部分の空間をうまく合法的に(完成検査の受け方などのテクニックも含めて)活かせるかしかなく、このことが工務店設計者の腕の見せ所である。
 建築基準法の制限に北側道路の斜線制限があるが、この制限内の空間を無駄なく利用しようとすると、自ずから屋根は急勾配になる。ここにできる三角空間を利用するには、小屋束などはできるだけ少ない方がよい。ゆえに、母屋、束を省く登り梁方式が有利であり、登り梁頂点を合掌として固定緊結すれば、棟繋ぎだけで済み、棟木、棟束がいらなくなるので、小屋裏利用には有利である。
 番匠型住宅の小屋構造は以上の理由から、登り梁方式を基本とした。登り梁と桁の緊結には、番匠型金物のパイプ引き寄せボルトを登り梁上端から桁に通し、桁とパイプボルトはドリフトピンで固定する。
 この引き寄せボルトの使用により、切妻屋根ケラバの破風板取り付け用の母屋鼻材が簡単に取り付けられる。

〔2-3〕断熱野地パネル
 間隔1.8m、0.9mに取り付けられた登り梁間に、断熱材を充鎮した番匠型野地パネルをN50ネイルで固定する。厚さ25・、巾105・のフレーム材に、厚さ12・の構造用合板を野地板としてスクリュービスにて固定する。野地板と接着している鋼板屋根の場合には、耐熱性のある不燃野地板の珪酸カルシウム板とか、大建のダイライトを使用するのがベストである。
 断熱材については、グラスウール、スチレンフォームなど自由だが、旭化成の「ネオマフォーム」が耐燃焼性能と断熱性能が優れているので、かなり高くつくができるだけ小屋についてはネオマフォームを使用するようにしている。
 この番匠型野地パネルはネオマフォームを使って充填断熱工法における在来軸組住宅の、“次世代省エネルギー基準”を満たす・地域における屋根部位厚さ92・以上はともかくとして“新省エネルギー基準”の・地域における屋根部位40・の2倍、80・は確保している。パネル下端には450ピッチで胴縁が取り付けられていて、内部造作時に12・のプラスターボードを下張りし、ピーリングなどの仕上げ材を打ち上げる。
(上)断熱野地パネル 、(下中央)小屋裏パネル下端

〔2-4〕耐力壁パネル
番匠型住宅工法での耐力壁は、筋かいでもパネルでも使用することができる。どちらを選ぶかはプラン(平面図)によって決めるが、双方の併用も良しとする。
 パネルフレームの枠材寸法は75×36とし、構造用合板9.0・、12.0・をスクリュービスにて室内側に固定する。断熱材は野地パネルと同じ旭化成のネオマフォーム40・、或いはスチレンフォームなどを柱にパネルを固定後に充填する。

〔2-5〕根太レス剛床工法
 小屋梁、2階梁ともに梁間隔を910・、或いは1000・として、それに直交するように長手方向に本実加工した厚合板を張る。
 1階床組は、従来の大引きをなくし、全て土台として土台上端にあわせて、910・、或いは1000・間隔で鋼製束などを用い上棟時に設置する。その上に2階床と同じく厚合板を張る。
 釘はCN75を使用し、間隔は合板の外周で150・、中通りで200・とする。本実加工部分に接着剤を塗布して貼り継ぐが、火打ち梁などを省くことができる。

〔2-6〕番匠型住宅構造躯体
 この構造表し工法は「番匠型住宅」という弊社のオリジナルシステムであるが、住宅における構造表し建築は今始まったものではなく、昔から民家建築として伝承されたものである。番匠型は、それらの中から残せるものは伝承し、改めるべきところとしてコネクター部分の加工における大工手間の省力化と、併せて母屋、束、垂木、大引、根太などを省き構造の大幅な簡略化を図った。

2.ティンバーフレームと在来軸組表し工法

 在来工法のルーツは、6世紀半ばに朝鮮半島から渡来した「造寺工」(てらつくるたくみ)らによって本格的寺院として飛鳥寺が建築され、その様式を現在に伝えている法隆寺にあると言える。
 12世紀頃、欧州では「ティンバーフレーム」と呼ばれる大断面の木材架構建築が誕生している。やがてこの工法は欧州から北米に渡り、ハーフティンバー(小断面の木材架構)から2×4と変わっていった。
 数年前にドイツの住宅展示場を見たが、柱、梁の架構式工法が少なくなかった。それもほとんどと言っていいくらい、「柱・梁表し仕上げ」であった。北米でも高級住宅になればなるほど、ティンバーフレーム工法か2×4工法との併用が多いと聞く。在来軸組工法こそティンバーフレームと称される工法を含めて、現在でも世界の木造住宅の主流であると思う。
 メーカー住宅と工務店のつくる住宅の差別化を考える時、この軸組表し工法こそ「我々工務店が取り組む工法である」との確信を持つに至った。
 木材を自然のまま表して、構造を考えデザインするフルオーダーメイドの家づくりは、マスプロ・マスセールを経営の基本とする大手住宅メーカーでは無理である。つくる住宅の数ではなく、つくる住宅の顧客満足度の向上に経営の基本を置いている工務店こそ、唯一つくることのできる工法ではないだろうか。
 今世紀のはじまり―2000年の元旦に「木成りの家」というブランドの住宅設計で著名な、宮坂公啓さんからThe First Step forward New Millenniumと題した素適な年賀状を頂いた。
…One of the ways to improve the Quality Of Life is a TimberFrame method to Japanese people.…
 ……日本の人々にとって生活の質を向上させる一つの方法はティンバーフレーム構法です……

 この年賀状をもらったときは本当の木造住宅をつくっている建築家が日本にいたことを知り、嬉しくなると共に感動した。
 この、木造住宅表しの家をいかにしたら、リーズナブルバリューで提供できるかを追求して開発したのが「番匠型住宅」である。

3.「番匠型住宅」はオープン工法

 
中野工務店(千葉県・市川市)
大丸ハウス(東京都・稲城市)
坂下工務店(三重県・志摩郡)

首都圏の工務店5社が集まり、大工育成のための広域認定訓練校「番匠塾」を1995年に芝浦工業大学のキャンパスをお借りして開設したが、その際、同大の藤澤好一先生にご指導をいただいた。
 その頃、藤澤先生がご自宅を新築中であったので、その新築現場を幾度も見学させていただいた。先生ご自身の設計であったが、これが構造表しの、まさに私の求めていた新しいシステムそのものであった。
 通し柱工法で、柱と梁のコネクターに金物を使い、壁に4×8の28・構造用合板を柱間に納めて耐力壁とし、室内は漆喰塗り壁仕上げである。この藤澤邸を参考にして弊社独自の工法を開発した。
 この工法を、藤澤邸を施工した神奈川県大和市の青木工務店さんに手伝ってもらい、(財)日本住宅・木材技術センターの合理化認定を取得することになった。その時、藤澤先生につけていただいた名前が「番匠型住宅」である。
 自画自賛を承知で言わせてもらえば、この「番匠型住宅」は何百とある合理化認定工法の中でも優れたシステムだと自認している。
 ちょっとした金物とかパネルを開発し、直ぐパテントを取り、新工法としてFCグループを立ち上げ、工務店から加盟金だのロイヤリティーだのと巻き上げている商人達には腹が立つが、それ以上に技術の良し悪しがわからない、無知としか言いようのない工務店が情けない。
 工務店が住宅メーカーに対抗して仕事を確保するためには、工務店の家づくりがもっと進化して商社や設計屋に負けないポジションを確保することであると思い、多くの工務店に機会あるごとにこのシステムを勧めたが、私の思い込みに反して、ごく一部の人々しか共鳴してもらえなかった。
 しかし現在は、開発後6年間で7社の仲間が番匠型金物をコネクターに採用して、表し仕上げをしている。また、プレカット工場でも和歌山県田辺の山長プレカット、飛騨高山の飛騨匠プレカット、江間忠グループの関東ソレックスプレカットさんなどが扱ってくれている。
 このシステムの開発は、一工務店としてはかなりの負担であったが、これの普及が工務店のシェアアップにつながることと思い、システムと併せて金物の販売なども最初からオープンにして誰でも購入することができるようにした。システムのマニュアルにしても無償にしたのでもっと賛同者が出ると予想したが、結果は数社を数えるのみで、私としては意外であった。
 そして、このシステムの価値を理解するには、実際に家づくりに従事している技能者以外には無理だということが分かった。
 大部分の工務店の経営者は技能技術に関しては素人同然であり、いくら革新的なシステム工法を説明しても理解できないのは当然であろう。
 世の中は“目くら千人、目あき千人”ということわざがあるが、工務店を名乗っていても大部分が“もの売り屋”であって、“ものづくり”に関してはほとんどと言っていいくらい、素人の域を脱していないのが現実である。

 私は前項で「工務店の社長は技術屋でなくてもよく、人育てが本業だ」と書いたが、社長は素人でも工務店は技術のプロでなければ困る。恐らく私の物指しで現在の工務店を見たとき、「家づくりのプロ」と呼べるのは半分も存在しない。それが前項で「家づくりを大手メーカーに頼んでも、工務店に頼んでも、当たり外れは五分五分だ」と書いた所以である。
 再び、工務店ならでは、の家づくりを構築するために地域に根ざした我々工務店が、それぞれの持てる力を結集し、大手メーカー、商社ビルダーに劣らない品質の住宅を「工務店のつくる家」として、堂々と地域に向かって発表すべきだ、と私は考える。
 高断熱・高気密・室内換気なども家づくりの重要な要素であることは間違いないが、その前提として、建物本体の高耐久化が不可欠の条件であり、「番匠型住宅」こそ最適のシステムだと自負している。
 この「番匠型住宅」を採用した数社の工務店はこのシステムをベースに自社で更にシステムアップを図り、弊社を超える実績を上げているが、今回はその一部を紹介する。

(左)共生建設(埼玉県・越谷市)、(中央)榊住建(埼玉県・さいたま市)、(右)青木工務店(神奈川県・大和市)
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