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第7回 工務店の技術力と木材加工

1.工務店の技術向上のために

 工務店の総合技術力は、現場監督の指導力と大工を筆頭に各職方の力量で決まる。
 工務店の優劣を決めるものは、これらのスタッフの経験が豊富で、プロとして「仕事は速く正確に」のモットーを実践できるか否かにかかっている。
 戦前の住宅建設では、現在と違って素材を大工が加工して使用していた。天井板や下見板などの製材品を手鉋で削り、それを取り付けていた。天井板や長押などの仕上げはかなりの技能を要したが、昨今は全て仕上げ済み、直ぐ使いの資材の使用が主流となった。
 また台所の流し台、下駄箱なども大工仕事としてつくっていたが、今では全てユニット化され、ノックダウンされたパーツを現場で組み立てるだけで済むようになり、誰がやっても一応の品質は確保されるようになった。
 戦前から戦後昭和30年代頃までは、木造住宅の品質は従事する大工の技量で決まると言っても良いくらい、大工が全てであった。戦前の市街地建築物法から建築基準法に変わり、かなり規制されるようになってくると、住宅の施工監理業務は大工から「現場監督」と称される者たちの仕事に取って代わった。
 平成12年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の中に定められた「住宅性能表示制度」では9つの区分に大きく分けられ、それぞれに性能ランクが設けられた。
1.構造の安定…震や風等の力が加わった時の建物全体の強さ
2.火災時の安全…火災の早期発見のしやすさや、建物の燃えにくさ
3.劣化の軽減…建物の劣化(木材の腐朽等)のしにくさ
4.維持管理への配慮…給排水管とガス管の日常における点検、清掃、補修のしやすさ
5.温熱環境…暖冷房時の省エネルギーの程度
6.空気環境…内装材のホルムアルデヒド放散量の少なさ及び換気装置
7.光・視環境…日照や採光を得る開口部面積の多さ
8.音環境…居室のサッシ等の遮音性能
9.高齢者への配慮…バリアフリーの程度
 この制度の目的は新築住宅の性能を住宅の工法・構造・施工者の別によらずに、共通に定められた方法を用いて客観的に示し、それを第三者が確認して住宅を取得することができるようにしたものである。
 この制度の利用については、施主が任意に選ぶことができるものであるが、性能評価された住宅に関する紛争を処理する仕組みなどが設定されており“施工者のため”というより“家を取得する者たちのため”の法律と言える。
 「任意制度である」ということと「費用は施主持ち」ということから、注文住宅では今のところ適用件数はあまり伸びていないようである。
 私はこの制度の概要を聞いた時、この制度の目的は消費者のためのものであるが、我々工務店の施工管理者のテキストブックとして使ったら、品質管理・施工管理に役立つと感じた。
 住宅の性能評価を希望するもの(施主・施工者など)は、性能の自己評価をした上で第三者機関である指定住宅性能評価機関に申請を行う。評価機関は設計図書に基づいて住宅の性能を評価し、設計住宅性能評価書を交付する。さらに評価機関は施工段階と完成時に住宅の検査を行い、性能を評価し、住宅性能評価書を交付するものである。
 評価機関の検査員は所定のチェックシートを用いて検査をするが、このチェックシートはそのまま“施工管理シート”に転用することができる。
 今まで、現場管理者の施工監理テキストは建築基準法施行細則であり、住宅金融公庫標準仕様書であったが、この制度ができてからは(財)日本住宅・木材技術センター発行の「住宅性能表示制度マニュアル」や「住宅性能評価申請の手引き」などを施工監理テキストとして用い、この規定を物指しとして現場の施工監理業務に精通することこそ、工務店の技術力と合わせて品質管理力も向上する唯一の方策であると思う。
 故に、この制度は自社の技術力向上のために、施工者である工務店が進んで受けるべきである。
 住宅性能保証制度の加入によって検査員のチェックを受けることはすでに経験していることであるが、住宅性能評価機関の第三者の検査を受けることは、工務店の技術力がややもすると「井の中の蛙」になりがちであることからしても、自社の工務店としての技術力検証の場として進んで活用すべきである。

2.工務店の木材加工施設は必要か

 工務店といえば、事務所は自宅の玄関先で間に合わせていても、大工の下小屋だけはそれなりの設備を持っているのが当たり前であったが、現在は大工が刻み(プレカット)をやらず、プレカットを外部に委託するようになり、造作材など下拵えのための作業所まで持たない工務店が増えてきた。それに伴って造作材まで既製品の仕上げ済み材を多く使うようになってしまった。そのために材木をストックする倉庫まで持たない工務店がほとんどである。
 このことが良いか悪いかは議論の分かれるところだが、工務店の規模の大小を問わず少なくとも注文住宅の施工を主とする工務店であるならば、それなりの大工作業所、材のストックヤードを持たなければ注文住宅の多種多様な仕様に応えることはできない、と私は思っている。
 木材は植物であり、流通の段階で生鮮食料品の野菜や果物などと共通しているところがある。需要と供給のバランスの中で、割安価格での材の調達が可能な機会も少なくはない。まして、木材市場や商社問屋などで直接購入ができるようになった昨今では、良材をバンドル単位で割安に仕入れ、ストックし、乾燥材として使用することは工務店でしかできないことである。
 現在、首都圏の新築需要のほとんどは「建て替え」であるが、大部分の敷地が「狭小敷地」と言われる30坪前後が多い。故に資材を現場の敷地内に置くことはできず、どうしてもその日に使うだけ、ストックヤードからその都度搬入しなければならない。
 町の材木店が資材供給の機能を果たしていた時代には、木材店に大工下小屋があって、それをなにがしかの費用を払って借りることもできたが、最近はその姿も見られなくなった。

3.工務店の木材加工技術

図1 巾接ぎ例
図2 化粧挽き板練り付け例
 昭和30年代に始まった大工道具の電動化は大工の木材加工手間の省力化に大きく貢献したが、木材加工用としての電動大工道具の時代は終わり、今は大型専用加工機の時代となった。
 電動ハンドソーから卓上クロスカットソーになり、電動プレナーから自動鉋盤を経て4面プレーナー、多軸モルダーへと替わり、住宅資材の木材加工を大工仕事から工場加工へと変えていった。
 在来軸組工法の材木屋によるプレカットが普及すると共に、造作材まで仕上げ済みの材が売り出されたが、ほとんどが突き板貼りか印刷シートラミネートの集成材である。これが大手住宅メーカーを中心に使われ始めた。
 自然素材中心の注文住宅を扱う工務店にとって「良い材を安く調達する」という得意技をあえて捨てて、誰でもが扱える既製商品を扱うということは、プロとしての特権を放棄するにも等しい。
 集成造作材は安くはない。それをなぜ使うのかというと、ソリット材(無垢材)を大工に加工させ、手間賃を掛けるより「安い」ということである。
 大工が手動工具で加工するからコストが上がるのであって、工場で自動専用機を使って加工すれば集成材より安く使用することができる。
 安全で強度的耐久性に優れた木材の接着剤が開発され、従来の膠に代わって家具などに多く使用されている。
 しかし、住宅の造作材加工にはあまり接着剤は使用されていない。…というより、多くの大工・工務店には使いたくともその使用方法が分からないと言う方が正しいだろう。大工にしても現場監督にしても、接着剤は酢ビ系の木工ボンドしか知らない。
 では、木材を接着使用するメリットのいくつかを紹介する。
 木材には「役物」といって、クリア材(無節)とか巾広材などは普通1等材価格の数倍もする。木材の単価に疎い設計屋さんは怖いもの知らずで、ガラス戸、障子、網戸、雨戸、の4本引き鴨居巾28・檜材無地―などと簡単に指定してくれるが、このような材は規格品にはなく、みな挽立て注文材となり、それこそ目の玉の飛び出るような価格が請求される。これとて、規格品の12・内法材を、建具溝の中で3枚を貼り合わせれば(図-1)、価格は数分の一で納まる。
 また、厚みのあるカウンターなども見付きを所定の厚みに取り、面別れで貼り合わせれば(図-2)、銘木と呼ばれる高価な材も手軽に使用することができる。
 その他、造作用集成材やつくり付け家具なども格安につくることができる。要は、大工職人と現場監督が接着剤の知識をいかにして身につけるかである。接着剤本体に硬化剤を混ぜ、圧力を所定の時間加えることだけなのだが、その時の加える圧力や室温などにより接着時間なども変わってくるので、きちんとした設備のある工場が是非とも必要になる。
 本来、「膠」とか「そくい(米飯を練り上げてつくった糊)」を使って「練りつけ仕事」と称して内装工事などを手がけていたのは、我々職人達であった。
 現在でも材の取り付けには結構接着剤が使われているが、造作材の巾矧ぎ、積層加工などをこなせる大工も工務店もまだ数少ない。
 構造木材を意匠として見せ、自然素材の家づくりを目指すなら、それなりの機械設備を備えた木工場を持つことが木造住宅でコストダウンを図れる工務店の必須条件である。能率の上がらない大工による加工仕事を取り上げて、工場での専用自動機加工へと変えていかなければならない。
 故に、木造の注文住宅を業とするならば、木材加工場の設置は工務店にとって欠くことのできない要件である。
 前項でも紹介したが、弊社(中野工務店)では自社オリジナルの「番匠型住宅」を施工しているが、表し仕上げの高度なものは自社でプレカットをしている。
 工務店の木材加工技術の一例として設置してある機械を紹介したい。

4.部材加工の機械設備

写真1 自動4面プレーナー
写真2 クロスカットソー(木口切断機)
1)材の整寸加工
 芯持ち角材を主に使って軸組を組んでいた従来の墨つけ(マーキング)は、その材の中心を全ての起点(基点)とし、そこから返り墨を起こして仕口・継手などを墨つけした。
 故に、材の寸法がまちまちであっても、丸太であっても、構わなかった。
 構造表し仕上げの墨つけはこれと違って、材の面(つら)が基点となるため、どうしても部材の寸法が一定でなければ、仕口は口が開いてしまう。
 そのために必要となるのが、自動4面プレーナー(写真-1)である。また、同じ長さの材を多数カットするために必要となるのがクロスカットソー(写真-2)である。

2)仕口(継手)加工機
 大工が下小屋(作業所)で建前の刻みをするのが在来プレカットであり、工場でCAD/CAM制御で刻むのがオートメーションプレカットである。現在は「プレカット」と言うと、この自動機械プレカットのことだと理解されている。
 大工が刻む在来プレカットでも電動工具を専用加工機に替えて軸組加工を行っているが、これこそ機械プレカットと呼ぶべきである。要するに、使用する機械がアナログかデジタルかの違いだけである。
 ここで紹介するのは弊社が昭和57年に設置したプレカット初期の仕口加工機である。10数年経った現在でも結構役に立っている。ルーターの刃物形状も現在のものと違わない。
 償却済みのこの機械を使っても、CAD/CAMの工場に外注しても、加工コストはあまり変わらない。この機械を使い慣れた大工だと、手で墨つけをしても1平方メートル当たり1,820円ぐらいで上げてしまう。
 仕口加工機の種類として大きく分けると、〔縦〕鎌、蟻、継手・仕口加工機―オス(写真-3)、〔横〕鎌、蟻、継手・仕口加工機(写真-5)、自動角鑿機(写真-6)、ホゾ取り機の4種類が主なものである。
写真1〔縦〕鎌、蟻、継手・仕口加工機―オス  写真2〔縦〕鎌、蟻、継手・仕口加工機―メス
写真3〔横〕鎌、蟻、継手・仕口加工機  写真4 自動角鑿機
写真5 コネクター金物スリッター

3)パネル製作・造作材加工機
 真壁、梁表し仕上げ工法に耐力壁パネルを採用し、真壁パネルの製作には構造用合板のカットにパネルソー(写真-8)を使えば切断が正確である。

(左)パネルソー、(中央)バンドソー、(右)超仕上げプレーナー

4)集成材加工機
 木材をバンドル買いして使う場合のデメリットとして、材のロスがかなりの量になるということがある。1割や2割のロスが出るのは当たり前で、このことを嫌って多少高くても必要買いをすることになる。
 このロス材を活かし、デメリットをメリットに変えることができる。それは、残材・端材をフィンガージョイント加工して集成心材として活かすことであるが、工賃との兼ね合いがあるので、役物単板で化粧したクリア造作材として活用すれば、充分にメリットを受けることができる。
 構造表しの家づくりをするには、どうしても以上に挙げた程度の木工機械が必要となる。材の加工を大工の手仕事に委ねていてはいくら「価値ある家づくりだ」と唱えてみても、リーズナブルなコストを出せなければそれは一人よがりで終わるだけのことである。
 優れもののコネクター金物ができているのに、未だに大部分の工務店が柱と梁のコネクターに両ネジボルト(さくらボルト)を使い、大きな断面欠損を平気でつくっている。
 何故に継手金物を使用しないのか不思議でならないが、もう10年も経てば、関東大震災以降補強金物として発明された羽子板ボルトがそうであったように、通し柱と梁、胴差しのコネクターに金物を使うことは常識となるだろう。

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