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第8回 工務店の受注営業を考える

1.物品販売の方法分類

 何を販売するにもセールス活動を無視することはできないが、販売する物品によって販売方法は変わる。
 一般的な商品の販売方法として行われているいくつかの事例を挙げてみる。
1)店頭販売
2)訪問販売
3)通信販売、電子市場販売
4)催事販売
 大きく分けて以上の4種類に分類することができる。そして商品の広報にDMとかチラシのポスティング、新聞折り込み、雑誌等への広告掲載、TVCMの放映などを行っている。
 住宅の販売は他の商品販売とは性質が異なる。
 ハウスメーカーを始め、不動産販売業が行っていたのは、通信販売と催事販売、それに加えてこの2つを組み合わせたものの3種類。そしてTVなどのメディアを使って知名度を上げ、その後に催事や通信などの手段を使って集客し、仕上げに訪問するという、複合的な販売方法を取るようになってきた。
 しかし、ここにきてこのように販売方法を分類すること自体がもう過去のものとなってしまった。
 IT時代を迎えて、IT導入が驚異の速さで進み、新しい販売チャンネルが続々誕生しつつあるからである。

2.通信販売・電子市場販売

 数年前までは通信販売といえばTVCMかダイレクトメール、そしてマンション販売などでよく使う電話による勧誘ぐらいであったが、最近はこれに加えて、インターネットを使ったホームページや通販雑誌によるものなどが増加しつつある。
 2000年11月に政府のIT戦略会議が開かれ、IT導入が進められつつある。議長・出井ソニー会長、本部長・内閣総理大臣(森前首相)によって開催され、日本がトップレベルのIT国家になるために「IT基本戦略」が発表された。その内容は、
1)5年以内に、3,000万世帯にADSL・CATV(高速通信)で、1,000万世帯が30〜100Mビット/秒程度の超高速(光ファイバー)で、インターネットに接続できる環境を整備する
2)全国民が低料金でインターネットに常時接続できる環境を整備する
というものである。
 実際、ブロードバンド(超高速回線・高速回線)の普及は進んでいる。2002年には3,400万世帯が高速回線を利用可能な環境に、1,400万世帯が超高速回線を利用可能な環境に整備されている。そして電子商取引が促進され、全ての国民が電子市場に安心して参画できる環境が整いつつあるのだ(資料出典:自由国民社『現代用語の基礎知識』)。
 最近のニュースでも話題になった「楽天」を始め、いくつかのインターネット関連業者が電鉄やスーパーに取って代わってプロ野球界に乗り出したことなどを見ても、まさにIT時代に入ったことを感じざるを得ない。
 インターネット市場(電子市場)の出現は、大手ハウスメーカーによるTVのCM放映を今まで指をくわえて見ていた我々工務店でも同じ土俵に上がれるチャンス到来である。薄型TVの出現に併せて、TVでもインターネット双方向通信が可能になってきた。
 ホームページを一種のCMと考えれば、見たくないTVCMを見せられるのと違って、見たいCMを見る時代になってきたということである。
 我々はTVでの高いCM料を払うことなく、ホームページでCM効果を手にすることができる。このインターネットの活用をどのように構築するかが、これからの工務店の受注営業のポイントであることは間違いない。

3.催事販売・展示販売

 「催事販売」とか「展示販売」というような言葉ですぐ頭に浮かぶのは、ホテルなどのホールを借り切って開かれる呉服の販売である。また、デパートでマネキンを使ってメイクアップやクッキングを実演しながら商品を販売するものもある。
 商社やメーカーが晴海などの巨大展示場を使って「○×フェア」などと名付け、商品を一堂に集め建材などを販売するのが催事販売の最たるものであろう。
 ハウスメーカーは、住宅展示場にモデル住宅を建てるのが最大の販売手段であり、その集客を通信販売であるチラシの新聞折込み、ポスティングなどを併せて行っている。我々工務店でもよく行う、現場見学会なども、催事販売の一種である。

4.現在工務店が行っている営業

工務店ほど実態のわかりにくいものはない。その数にしても10数万社という統計もあれば、6〜7万社と言う人もいる。最近のマスコミなどでは「ものづくり型」の工務店は全国で約2〜3千社ぐらいだろうという報道もある。
 職人を抱え、現場監督を使い、家づくり一筋の工務店もあれば、不動産屋はだしの営業主導の工務店もある。それぞれ営業主体が違うので、受注営業・販売営業もそれぞれいろいろである。
 ここでは注文住宅工務店に絞って、その中から専任の営業社員のいる工務店と、営業社員は置かず技術系社員がユーザーに対応し、設計から現場まで責任を持つシステムの工務店とに分け、現在における工務店営業の実態について考察してみる。
 中堅の工務店で年間30棟から50棟建てる工務店は専任の営業社員を置いているが、それに併せてモデル住宅を単独で建設したり、あるいは大手メーカーに伍して総合住宅展示場に出展している例もある。
 これらの工務店は、モデル住宅を営業拠点として数人の営業社員を置き、集客は総合展示場ならば展示場運営会社が主に行う。
 これに対して、単独のモデル住宅を設置している工務店は工夫しながら集客を行っている。その方法の代表例としては、モデル展示場を使っての催事案内を新聞チラシなどを使って集客する方法があるが、最近の新聞チラシの反応は非常に低く、チラシ10万枚で2、3名の集客ができれば上々とのことである。この費用は100万から150万掛かるとの声も聞く。
 モデル住宅の償却費と営業社員の人件費とを考えると、工務店として単独のモデル住宅を持つということは、採算的には難しい。また総合展示場に出展した場合でも、出展料など維持費もかなりの額になり、これとて採算に乗せるのは大変である。
 「工務店にモデル住宅は必要か」と聞かれることがあるが、それはないよりあった方が良いに決まっている。
 例えば自動車の購入について考えても、ユーザーはカタログで見て決めていても、最後の駄目押しは必ず実物を見て、その上試乗までしなければ購入決定をしない。
 住宅建設とて同じであり、ある程度商談がまとまってくると、最後は「どこか施工現場を見せてください」という施主がほとんどである。そのときは直近に引渡したお客にお願いして見せてもらえば済むことなのだが、モデル住宅があれば更にベストである。
 維持費の掛かるモデル住宅を設置するのは問題があるが、1、2年ぐらいモデルとして使って、その後分譲するなどの方法がとれれば問題はなく、モデル住宅を持つことは有意義なことである。
 「番匠型住宅」を施工している埼玉県K建設さんのモデル住宅の建設は非常にユニークである。子どもさんのために数年後に新築を予定されている施主に建築の時期を早めてもらい、必要となる時期までの数年間を家賃を払って自社のモデル展示場として借りるというものである。
 この例などは初期投資が少なく済み、施主にしても建設費が家賃収入で賄えるという、まさに一石二鳥の例である。
 しかし、間違っても大手の真似をして総合住宅展示場などに出展してはいけない。経費倒れになるばかりか、総合展示場で集客を図る時代はすでに終っている。
 弊社(中野工務店)も単独のモデル住宅を事務所脇に設置していた時期があった。それはそれなりに受注の戦力にはなったが、見学者の心を捉えたのは、モデル住宅だけではなかったのである。それは事務所脇にある工場であり、材木のストックヤードであった。
 特に若い見習大工が木材の香りにつつまれ、木工機械を駆使してプレカットしている姿に感動をしてくれた。檜の香りと、ベテラン大工に交じって黙々と働く若い初心な職人。この組み合わせこそ、逆立ちしても物売り屋にはできない、工務店ならこそできる自己PRであり、工務店の営業の原点である。

5.工務店営業活動の基本

工務店には工務店らしい営業のやり方がある。いたずらにメーカー住宅の営業を真似することは無駄であり、的外れであるとしか言いようがない。
 では「工務店らしい営業とは何か」だが、私は工務店として営業の原点は「しっかりとした技術に裏打ちされた、他社に誇れる住宅の開発・建築」が第一であると思う。
 そのために職人を養成し、各職方の協力体制を構築し、工場などの生産施設を整備することがものづくり工務店の基本であり、この基本が確立されてこそ、営業活動が生きてくるものだと確信する。その上で工務店営業の基本となるべきものについて、私の体験を述べる。
 (1)顧客台帳の管理
 よく「顧客管理が大切だ」などといわれるが、この言葉はお客に対して大変失礼な言い方である。客を管理する資格など我々は持っていない。大切なのは顧客台帳の管理であって、顧客管理ではない。
 平均的な工務店では、新築に増改築などを加えた新規の顧客数は年間少なく見ても20〜30件はある。営業歴20年なら、500〜600軒の顧客リストが生じる。この顧客を自社に対する満足度別にA顧客、B顧客と分類する。全部を満足してくれた顧客ならこれに越したことはないが、不本意ながら多少でも不満の残る客がいるとしたら、アフター点検などに誠意を尽くし、時間を掛けて全顧客がA顧客になるよう努力する。
 この台帳は単に客の住所録ではない。我々が病院に行くと、医者は先ず分厚いファイルから診断カルテを取り出す。工務店の顧客台帳はそのカルテと同じ働きを持っていなければならない。
 パソコンに住所、電話番号を打ち込み、年賀状・暑中見舞いに使うくらいのために顧客台帳があるなどと思っていたら大間違いである。
 少なくとも、家とそこに住まわれる家族の経歴書であるならば、1顧客に1冊のファイルが必要であり、これを手間暇 かけて整備するのが、顧客台帳管理である。
 これにどのような情報を入れるか、そしてこの台帳をどのように使うかは各人それぞれに考慮すべきことであるが、この台帳をどう活かしきれるかが、工務店営業の重要なポイントであろう。
 私の友人である某社長は、台帳の情報から新築引渡し日を毎月リストアップし「貴方のお家は○歳の誕生日を迎えました。どこも不具合はありませんか」と、ちょっとした記念品を同封した便りを贈っている。これを引渡しから10年間実施しているとのことだが、これなどはあまり金が掛からず誰でも実行できることである。
 顧客に社内報紛いの住宅に関する情報を毎月送る会社もあるが、顧客全部に送るとなると手間も送料もバカにならない。顧客全部に送るのは年賀状と、できれば暑中見舞いで充分だと思う。
 毎月毎月欲しくもない情報を送られたら受け取る方は傍迷惑である。一方、全部が全部もらって喜ぶとは限らないが、引渡し後の周年に挨拶をもらうのを怒る人はまずいない。
 (2)ホームページ
 以前は注文住宅受注のために、ダイレクトメールとか、折込みチラシなどがよく使われたが、昨今では注文住宅の営業手段としては、あまり採用されなくなってしまった。同じ住宅の販売でもマンションや建て売り住宅の販売とでは、大きくその手法が異なる。
 注文住宅の広報は、あくまで「自分のところは何がつくれるのか」ということをアピールするのみである。自社の特徴を知ってもらう手段としてはテレビ放映に優るものはないが、費用が掛かり、工務店の取る手段ではない。
 IT時代を迎え、情報を必要な時に必要なものだけを得られると共に他と比較検討のできるホームページは、自社PRを、あまりコストを掛けずに活用できる有効な手段である。
 しかし、なんでもホームページで開示すればよいというものではない。ユーザーは業者選別の手段として検索するのであるから、ユーザーは何が知りたいのかを考え、それに応えられるページづくりが必要となる。
 業者選定の要件としてユーザーが知りたいことは、
1)家づくりのキャリア =住宅建築業として、経験は豊富なのか?
2)どんな家が造れるのか、コストはどうか? =施工実例を見たい、そしてコストも知りたい。
3)財務内容と営業の持続性 =経営状況、事業の継続性などについて。
4)家づくりのポリシー =家づくりに対するコンセプトは?
5)各保証関係 =完成保証、暇疵担保保証などは?
などが主であろう。
 以上の事柄をわかりやすく掲載できれば、専門家に委託しなくても充分なページができる。ただし、工務店のつくるホームページの命は施工事例写真であるが、これといって良い写真が載っている例はあまりない。文字による説明は少ないほうがよく、建物の写真にもっと力点を置くべきであり、写真が全てである。
 ホームページの作成をプロに依頼し、TVCM紛いのアニメーションだのフライングシーンだのを多く使っているのを目にするが、肝心の建物写真にインパクトが無いものが多い。
 (3)建築現場見学会
 施主に引き渡す直前に「完成現場見学会」とか「お披露目会」などを行うのが流行った時期があった。当時は新聞に折込みチラシを入れたり、ポスティングをしたりして不特定多数の集客を図ったものだが、昨今はこのような見学会は施主が嫌うようになってきた。施主として、プライバシーや以後の防犯面での不安などセキュリティの面からいっても当然のことである。
 あるFCグループは未だに全国紙に全面広告を出し、全国一斉現場見学会などとぶち上げているが、現場見学会に不特定多数の見学者を集める手法はもう古い。
 では、もう見学会は行わなくてもよいのか、というと答えは「否」である。いたずらに数を追わない工務店として、1軒1軒誠意を尽くして仕上げ、施主に満足をしてもらった上で入居前の一日をオープンさせてもらうことを依頼する。それを断られるようでは、施主に本当の満足を与えていないのだと思う。 
 施主に普請の喜びを与え、満足をしてもらえれば、こちらから頼まなくても「家見世会を開こう」と言ってくれる。
 夢が叶った喜びは、自慢となって外に向けられる。そして自分達の親戚、友人などを集めて新築の喜びを伝えてくれると共に「家を建てる時はうちの工務店に頼んで」と言ってくれたりする。
 このような施主主導型の見学会は“種蒔き”みたいなものであって、直ぐに結果の出るものではないが、数年の間に結構引き合いのあるものである。
 これからの完成見学会は、これら施主の地縁・血縁の人々と、現在引き合いのある見込み客だけのものとすべきである。間違っても飛び込み客などを当てにしてはいけない。
 何名集客できたかを誇る人がいるが、来場数などなんの意味もない。従って、チラシの新聞折込み、ポスティングなどは不要である。

6.営業ツールとしての写真撮影

PC-Nikkor 28mm F4
Nikon F4 20mm
ホームページの項でもふれたが、完成写真が客にアピールする手段として重要な要素であるのに、工務店は住宅の写真撮影が不得手である。多くのホームページを見ていて「これは」と思うものでも、こと建物写真となると少し見劣りのするものばかりである。
 なにも写真すべてをプロのカメラマンに依頼しなくとも、昨今は機材の良いものが出ているので誰でも撮れる。うまく撮れないのは、写真の知識が無いからであり、ちょっと勉強すれば、「おっ」と思うような写真が撮れる。
 「プロに頼む建築写真」というと誰もが4×5判の大型カメラを連想するが、最近はプロでも雑誌カメラマンなどは、35・カメラを使っている。我々が使うのも35・の一眼レフレンズを交換できるカメラで十分である。
 ただ、室内用として20mmの広角レンズが必要である。広角レンズとして他に18mm、24mmなどがあるが、18mmでは左右がオーバーになり、24mmでは左右が不足するので、20mm広角レンズが一番使いやすい。
 外観撮影に広角レンズを使うと、建物のボリューム感が損なわれ、模型写真みたいになってしまうので、退ける(引ける)限り標準レンズ(50mm前後)を使いたい。
 最近は狭小地の建築が多く、どうしても全体像が撮りたいというときは、アオリ(パースペクティブの修正のためにフィルム面とレンズ面の位置、角度を変える動作)つきの、中・大判カメラで撮るしかないが、35・レンズでもPCニッコールレンズなどは、レンズシフト(レンズ部を左右に水平に平行移動する操作)ができるので、建物の垂直線を補正できる。また、キャノンレンズには、35mmでもシフトに加えチルト(レンズ部を水平方向を軸にして前後に回転させる操作)のできるレンズもある。
 建物撮影は人物の撮影と違って被写体が動かないので、できるだけレンズを絞り、露光に時間をかけ、焦点深度を広くすると大判カメラで撮ったようなシャープな画像が得られる。そのためには三脚の使用、シャッターレリーズが必要である。
 35mmカメラで広角レンズを使いこなすコツは、必ずフィルム部と披写体面とを平行にすることで、平行が崩れると披写体の垂直線が崩れる。従って、披写体面との並行線を崩さずカメラの上下、左右の移動だけで構図を決めることである。
 写真は建物に限らずいかに光をコントロールするかで決まるが、間違ってもカレンダー写真のようなすっきりしたものに撮らないことだ。意外に面白くない写真になりがちである。そのために、なるべく照明は使っても、フラッシュ撮影を止めること、自然の明暗をいかにうまく表現できるかで写真の良し悪しが決まる。
 最近は、デジタル一眼レフカメラの良いものが出てきた。フィルムカメラと違って撮影後すぐに画像を見ることができ、また撮ったものが気に入らなければ、それを消して撮り直しができる。
 さらに、パソコンに取り込み、編集・プリントなどもでき、メールを使って送ることも容易である。レンズ交換なので手持ちのレンズが使えるということだが、気をつけなければならないことは、デジタルカメラの画面サイズが35mmフィルムカメラの画角の67%しかないということである。つまり、35mmカメラの広角20mmレンズを使うと広角30mmの画面サイズしか撮れない。従って、35mmカメラの20mm広角で撮った画像を得ようとするには、デジタルカメラ用の12〜13mmの広角レンズが必要となってくる。
 芸術写真の分野に「風景」「人物」などのジャンルがあるが、建築写真となるとあるようでない。書店に行っても、風景とか人物写真の撮り方などといったマニュアル本は山とあるが、建築写真、特に住宅写真の撮り方などの教則本はないに等しい。また、月刊の写真誌などで特集を組んだことなどもあまりない。
 …ということは、この分野は住宅のデザインをマスターしたものが手がける分野で、プロカメラマンと称する人たちでも住宅をデザインする感性がなければ、それは住宅建築写真のプロとは言えないということだろう。
 我々家づくりに携わる者こそ撮影技術をマスターして、記録写真にとどまらず、完成写真を手がけることが必須で、金をかけずに自社の施工作品集を作ることができれば、これは工務店営業の大きなツールになる。
Nikon F4 20mm

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